第45話 親友としてよろしく

「アリーシャ姉さま、大丈夫ですか?」

「はい。もう問題ありませんよ」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

「無理をしていませんか? 我慢していませんか?」

「えっと……」


 あれから一週間。


 父さまが尽力してくれたおかげで、事件は無事に解決。

 ネコは裏組織に利用されていただけとして、執行猶予と保護観察はついてしまったものの、今までと大きく変わりのない生活に。


 私の怪我は、腕の良い治癒師に治してもらった。

 痛みも傷跡もない。


 なのだけど……


「うぅ……でもでも、やっぱり心配です。アリーシャ姉さまは、平気な顔をして無理をする方ですから」


 フィーは心配みたいで、朝からずっとおちつかない様子だ。


 うん。

 私の心配をしてくれるフィー、かわいい。

 やっぱり、彼女は天使なのだろう。

 ほら。

 目を閉じれば、妹の背中に翼が生えているのが見える。


「えっと……アリーシャ姉さま?」

「なんですか?」

「どうして、私は抱きしめられているのですか?」

「フィーが天使なので」


 しまった。

 気がついたら妹を抱きしめていた。


 でも、仕方ない。

 だって、かわいいんだもの。


「よっす」

「おはよう」


 登校途中、アレックスとジークと出会う。


 ちっ。

 私とフィーの大事な時間を邪魔するなんて。


 ついつい心の中で舌打ちをしてしまう。

 でも、表面は笑顔で。


「おはようございます、アレックス、ジークさま」

「おはよう、アレックス。ジークさま」


 四人で一緒に登校して……


「やっほー」


 少ししたところでネコが姿を見せた。

 いつもと変わらず、とても元気そうだ。

 私はうれしくなり、彼女……ではなくて、彼の元に駆け寄る。


「ネコ!」

「おはよう、アリーシャ」

「おはようございます。よかった、元気になったのですね」


 何度か顔は合わせていたのだけど……

 少し暗い顔をしていたため心配だった。


 でも、今はそんなことはない。

 とても明るい顔をしていて、前よりも元気に見える。


 それと、暗い影も消えていた。

 裏組織から抜けることができたからだろうか?


「すっかり元気になったみたいですね」

「アリーシャのおかげだよ、ありがとう」

「私はなにもしていませんが……」

「あれだけのことをしておいて、なにも、って言えるところはまあ、なんていうか……あはは、アリーシャらしいなあ」


 なぜか笑われてしまう。

 私、なにかおかしなことを言っただろうか?


「ネコさん、元気になったんですね」

「風邪を引いたんだって? 大丈夫か?」

「お見舞いに行こうと思ったのだけど、なかなかタイミングが合わず……申しわけない」


 遅れてやってきたフィー達が、笑顔であれこれと声をかける。


 フィー達は、ネコの詳しい事情は知らない。

 全部バレると、とても面倒なことになることが予想できたので、その辺りはごまかしておいた。

 真相を知っているのは、私と父さまと母さま。

 それと、一部の高官のみだ。


「ありがと、心配してくれて。でも、もう大丈夫。アリーシャのおかげで、すっかり元気になったから」

「? どうして、アリーシャ姉さまのおかげなんですか?」

「んー……とてもよくしてくれたから、かな」

「?」


 なんのことだろう?

 そんな感じで、フィーは小首を傾げた。


 不思議そうにするフィーもかわいい。

 抱きしめたい。

 あと、なでなでしたい。


「ねえ、アリーシャ」

「はい、なんですか?」


 ネコは、少しの間、じっとこちらを見つめて……

 やがて、笑顔で手を差し出してきた。


 よくわからないのだけど、その手を握る。


「私、まだなにも言ってないんだけど……それなのに握手しちゃうんだ」

「ネコの手を取らないなんてこと、ありえませんから」

「ふふ、ありがとう」


 ネコは微笑む。

 男性とは思えない柔らかい笑みだ。


「この握手は、これからも親友としてよろしく、っていうこと」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

「それと……」


 そっと、ネコは私の耳元に唇を寄せた。

 私にだけ聞こえる声でささやく。


「私、ネコのことが気に入っちゃった」

「え?」

「いつか、もっと仲良くなりたいな」

「え、えっと……」


 その声は、とても綺麗というか、胸に響くようなハスキーボイスで……

 私は、ついつい胸をドキドキさせてしまうのだった。

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