第43話 隠しヒーロー

 ネコが男?

 それは、どういうこと?


「え?」


 どういうこと?


 完全に予想外のことを告げられて、私は思考が停止してしまうほど混乱してしまう。


 ネコが男なんて、そんなわけが……

 いやでも、この状況でそんな冗談を言うわけがない。


 それに、ゲームでは、ネコは二つの秘密を抱えていた。

 暗殺者ともう一つ。

 もう一つは知らなかったのだけど……

 実は男で、隠し攻略ヒーローでした、というのなら納得だ。


 でも、まさかネコが男なんて……


「それは、本当なのですか?」

「あはは、信じられないよね」

「ネコの言うことだから信じたいのですが……しかし、どこからどう見ても女性にしか見えないので……」

「そういう風に教育されてきたからね。女装して相手を油断させて、あるいはそういう場所に潜入して任務を果たす……っていう暗殺者なんだ、私は」

「むう」


 じっと見る。

 じーーーっと見る。


 でもやっぱり、男には見えない。

 とてもかわいい美少女だ。


「その髪は地毛ですか?」

「そうだよ。基本的に伸ばしているから」

「肌も綺麗ですね……」

「男でも綺麗な人はいるからね。きちんとケアをすれば、こうなるよ」

「……正直、信じられません。なにか証拠はないのですか?」

「証拠、と言われても……」


 ネコは困った顔になり……

 次いで、頬を染める。


 ネコが男性である証拠。

 それは……


「……」


 私も顔を熱くしてしまう。

 なにを考えたか、それは秘密だ。


「えっと……はい、わかりました。変に疑うことはやめにします」

「ありがとう、信じてくれて」

「ですが、どうして私にその秘密を? トラブルに発展する可能性もありますし、隠しておいた方がいいと思うのですが」

「そうなんだけどね。でも、これ以上、友達に隠し事はしたくなかったから」


 その言葉からは、ネコの誠意が伝わってくる。

 うん。

 ネコが男性であろうと女性であろうと、関係ない。

 私にとって、ネコは大事な友達だ。


「ひとまず、私の家に来ていただけますか? 私が持つ力は大したものはなく……父さまと母さまに相談しないといけません。安心してください。二人共、きっと力になってくれますから」

「うん……ありがとう、アリーシャ」


 アリーシャは優しく笑う。


 よかった。

 これでネコを助けることが……あれ?


 でも、よくよく考えると、メインヒロインであるフィーのイベントを奪ってしまったことになるのだろうか、これ?

 だとしたら、フィーが困ることに……


 いや、大丈夫。

 フィーが困るというのなら、全身全霊で私が力になる。守る。


 それに……

 ネコを放っておくことはできない。


「では……」


 一緒に家に帰りましょう。


 そう言いかけた時、ゾワリと冷たい感覚が背中を走る。

 その嫌な気配の矛先は……ネコだ。


「ネコっ!!!」

「え?」


 おもいきり地面を蹴り、キョトンとするネコを地面に押し倒した。

 それと同時に、背中に灼けるような感覚が。


「ぐぅ……!?」

「アリーシャ!?」


 ネコが悲鳴をあげる。

 それもそのはず。

 私の肩に短剣が突き刺さっていた。


 もちろん、ネコがやったものじゃない。

 これは……


「……外したか」


 どこからともなく黒尽くめの男性が現れた。

 その手には短剣を握りしめている。

 サイズが小さいところを見ると、投擲用なのだろう。


「アリーシャ、大丈夫!?」

「なんとか……」


 ウソだ。

 本当は泣きたいほどに痛い。


 でも、今は私のことはどうでもいい。


 この展開は知らないのだけど……

 でも、前世で触れたゲームや漫画のパターンからしたら、これは……


「口封じ、ですか?」

「ほう、よくわかったな」


 黒尽くめの男性が感心したように言う。


 やっぱりか。

 黒尽くめの男性は、ネコが所属しているという裏組織の者。

 ネコが組織に従うかどうか怪しんでいて、見張っていたのだろう。

 そして、裏切りを宣言したために粛清しようとした。


 そんな状況を理解したネコは、顔を青くする。


「そんな……私は、ずっと組織のためにがんばってきたのに……」

「その組織を捨てようとした罰だ」

「そ、それは……でも、こんなにも簡単に……」

「ネコ」


 ショックを受けるネコの手を握る。

 それから、痛みを我慢して笑いかける。


「あのような組織に裏切られたからといって、ショックを受ける必要はありませんよ。だって、もう関係ないのですから」

「……アリーシャ……」

「むしろ、ざまあみろ、と笑ってやりましょう」

「……あはは」


 ネコは笑い、


「うん、そうだね。本当にその通りだ。私は、ネコ。ネコ・ニルヴァレン。組織のおもちゃじゃない!」


 強く言い放ってみせた。

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