第41話 友達の正体

 放課後。


 フィーに先に帰るように言った後、私は屋上へ。

 待ち合わせ場所として、ネコが屋上を指定してきたのだ。


「ネコは……まだ来ていないみたいね」


 学院の屋上は広い。

 その空間を活かして、小さな公園が作られている。

 池とベンチもあり、憩いの場として学生に利用されている。


 ただ、今は誰もいない。

 普段は、放課後でも人が多いのだけど……?


「なにかしら?」


 屋上に繋がる扉を潜る時、妙な感覚を覚えた。


 一瞬、平衡感覚が曖昧になるというか……

 水の中を潜ったというか……

 そんな不思議な感覚。


「アリーシャ」


 振り返ると、ネコがいた。


 いったい、いつからそこにいたのか?

 さっき見た時は、誰もいなかったように思えたのだけど……


 まあいいか。

 細かいことは気にせず、友達を笑顔で迎える。


「待っていましたよ、ネコ」

「……ありがと、来てくれて」


 やはりというか、ネコの表情は暗い。

 あいにくの曇り模様だ。


 朝から様子がおかしく……

 昼を一緒した時も、半分くらい残していて……


 いったい、どうしたのだろう?

 心配だ。


 この後の大事な話で、悩み事を打ち明けてくれるのだろうか?


 打ち明けてくれたとして……

 力になれることはあるだろうか?

 無理難題だったりしないだろうか?


 彼女の力になれないことがあったとしたら、それが怖い。


「それで、ネコ。大事な話というのは?」

「うん。そのことなんだけど……」


 ネコは一歩、前に出た。


 そして……

 どこからともなく短剣を取り出して、その刃を私に向ける。


「死んでくれないかな?」

「え?」


 突然の展開についていけず、思考が停止してしまう。


 その間にネコは一気に距離を詰めてきた。

 速い。

 私は反応することができず、喉元に短剣を突きつけられてしまう。


「ネコ、あなたは……」

「ごめんね。これが私の正体なんだ」

「もしかして……暗殺者?」

「正解」


 ネコは冷たく笑う。


 なんてことだ。

 まさか、彼女が暗殺者だったなんて。

 そんな衝撃的な事実……


 いや、待てよ?

 そういえば、そんな設定があったような気がする。


 主人公の親友は、一見すると優しい少女。

 しかし、二つの秘密がある。

 一つは隠しルートで判明するらしく、それをプレイしていない私はわからない。


 ただもう一つはわかる。

 彼女は暗殺者だ。


 悪役令嬢から依頼をされて、主人公を殺そうとする親友。

 でも、主人公の優しさに救われて裏稼業から手を洗い、本当の親友となる。


 ……そんなイベントがあったことを思い出した。

 そういうイベントを無視して、何度もバッドエンドを迎えていたため、思い出すのが遅れてしまった。


 でも、一つ謎がある。


「ネコは……どうして、私を?」


 ゲームでは、ネコに依頼をしたのは悪役令嬢。

 つまり、私だ。


 でも、私はそんなことはしていない。

 自分で自分を狙うとか滑稽な話だ。


 いったい、誰が私を狙っているのだろう?


「教えると思う?」

「冥土の土産に、というのがお決まりのパターンではありませんか?」

「……意外と余裕あるね」

「なんででしょうね。自分でも不思議です」

「実感が湧いていないのかな? もしかして、夢だとか思っている?」

「いいえ、そのようなことはありませんよ。ただ……」

「ただ?」

「ネコは私を殺さない、そう思っているので」

「……」


 人を殺せないだろう?

 そう言われたと感じたらしく、ネコが険しい顔に。


 でも、そんな意味で言ったつもりはない。


「ネコは優しい子ですからね。人を殺すことなんてできませんし、ましてや、虫を殺すのもためらってしまうほどです」

「そんなことはない」

「なら、どうして私をすぐに殺さないんですか? 話をする意味はないと思いますが? その短剣を少し、前に突き出すだけですよ」

「そ、それは……」


 この展開は予想外だけど……

 でも、私は落ち着いていた。


 ゲームの知識があるからじゃない。

 それ以上に、ネコ・ニルヴァレンという友達を信じているのだ。


「さあ、殺さないのですか?」

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