第40話 不穏な気配


「あら?」


 いつものようにフィーと一緒に家を出ると、アレックスの姿があった。


 登校途中、一緒になることは多いのだけど……

 でも、家の前で待っているのは初めてだ。


「おはようございます」

「おはよう、アレックス」

「ああ」


 挨拶をすると、彼はぶっきらぼうに頷いてみせた。


 私は別にいいのだけど……

 かわいいフィーが天使の笑顔で挨拶をしたらのだから、照れるなり動揺するなりしなさいよ。

 あなた、それでもヒーローか。

 私だったら悶えるほどに喜び、今日一日の幸せを確信するのに。


 フィーが不思議そうに問いかける。


「アレックス、どうしたの?」

「あー……その、なんだ。ちょっとしたことがあって、一緒に行こうかな、って」

「ちょっとしたこと?」

「シルフィーナ達の親父さんに頼まれて……いや、なんでもない」

「?」


 詳細を説明されず、フィーは小首を傾げた。


 私も首を傾げる。

 どうやら、父さまになにか頼まれたらしいが……

 でも、アレックスは詳細を説明するつもりはないようだ。


 隠し事をする時は、だいたい、やましいことを抱えているか説明しづらい状況のニパターンだ。


 アレックスはバカがつくような正直者なので、前者はないだろう。

 そうなると後者か。


 説明しづらい状況……

 なにか不安になるようなことがあり。

 私達に配慮して、口を閉ざしている……という可能性が高そうだ。


 ただ、詳細まで想像することはできない。

 私達を不安にさせてしまうようなこと……いったい、なんだろう?

 私の破滅の未来が関わっているのかもしれないが……

 しかし、それはまだ先のはず。


 うーん?


「ほら、学院に行こうぜ。のんびりしてたら遅刻する」

「うん、そうだね。アリーシャ姉さま」

「……そうですね」


 考えても今は答えが出そうにない。

 頭の片隅に留めておくことにして、私達は学院に向かう。




――――――――――




「おはよう、アリーシャ」

「おはようございます、ネコ」


 教室に入ると、ネコが笑顔で迎えてくれた。


 挨拶を交わして自分の席へ。

 すると、ネコが後を追いかけてくる。


「ねえねえ、アリーシャ。ちょっといい?」

「はい、なんですか?」

「今日の放課後、予定はある?」

「今日ですか?」


 突然だな?

 怪訝に思いつつ、予定を思い返す。


 フィーを誘い、イチャイチャしようと思っていたのだけど……

 まだ本人に話はしていない。


「ないといえば、ないですが」

「よかった。なら、ちょっと時間をくれない? 大事な話があるんだ」

「はあ……」


 大事な話とはなんだろう?

 考えてみるものの、うまく思いつかない。


「平気?」

「はい、大丈夫ですよ」


 大事な話の内容は気になるものの、教室で問いかけるわけにはいかない。

 放課後、ちゃんと確認することにしよう。


「っと、先生が来ちゃった。また後でね」

「はい。あ、ネコ」

「うん?」

「今日のお昼、一緒に食べませんか?」

「え?」


 いつもフィーと一緒に食べているのだけど……

 今日は、アレックスとジークと一緒するらしい。


 彼らは、私のフィーを狙っているのだろうか?

 そう考えると、ムッとしてしまうものの……


 とはいえ、フィーがもしも彼らのことを気にしていたら、それを邪魔するわけにはいかない。

 非常に……ひじょうううううに不本意だけど、食事くらいなら邪魔をしてはいけない、と考えるようになった。


 それに……


「ネコと一緒にごはんを食べたいんです」

「そう、なの?」

「はい。友達ではありませんか」


 妹ばかりを優先して、友達をないがしろにしてはいけない。

 それに、ネコと一緒にいると楽しい。

 一緒にごはんを食べると、きっと笑顔で過ごすことができるはずだ。


「……」


 ネコはキョトンとして……


「うん、そうだね」


 なぜか、泣きそうな顔をするのだった。

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