第三十八話 霊剋 〜たまきはる〜
「おい、
二人とも、
「あーっ! 嶋成! こんなところにいた! 探したぞ。おまえ、何したんだよ。
と言いつつ、
「真比登、そこにいるな……。これ、連れてきたことになるのか……? 」
と首をひねった。ぼてんと肉付きの良い体型の
「おまえのせいで荷車の車輪が外れちまったよ! これじゃ運べない。」
と怒り、ふうふう言いながら、しゃがみこんでしまった。見れば、肩に血がにじんでいる。戰場の刀傷であろう。
「きゃあああ! いや、いや、
「落ち着いて! オレがおぶって運ぶ! そっちの方が早い!」
嶋成は
「
「わかった。」
「助かる。」
嶋成は、小走りで意識のない
その悲しそうな顔を見て、嶋成は、どうしても言いたくなった。
「
(それが、オレ相手じゃなくてもさ……。)
「……!」
ぽろ、ぽろ、と涙を流しながら、噛みしめるように頷いた。
そのあとは、落ち着いて、医務室までついてきた。
「感謝します。嶋成さま。ありがとうございます、ありがとう……。」
と嶋成の両手を握って、額に押し付け、お礼を言った。
嶋成の手の甲に、
「!」
その涙の熱さは、直接、嶋成の胸の深いところまで、ぽとん、と染みてきた。
「い、いいんですよ……。」
嶋成がぼんやり言うと、すぐに
もう、嶋成のことは見ない。
ああ、これで、良かったんだなぁ……。
一月ほど前、
オレが言った言葉が発端だ、とあとから考えが至ったが、その発言の前から、
貴族の息子である自分が、なぜ豪族の娘にはじめから拒絶されたのか、考えてみた。
理由がさっぱりわからなかった。
そして初めて、何不自由なく育てられてきた自分が、足りない人間であると。このままじゃいけない、と思ったんだ。
オレは、オレを変える為に、ぬくぬくとした家を出て、親の力に頼らず、己を鍛えようと、ここに来た。
誇りを傷つけられて、悔しかったのか。
生まれ変わった自分を見せて、見直した、と言わせたかったのか。
ただ、謝罪させれば、気が済むのか。
そうも思うが、それだけでスッキリするか、というと、違う気がする。
もっと、オレの問題は根深いのだ。
謝罪させて屈伏させればおしまい、そうではないのだ。
そう思いつつ、賊に攫われ、辛く心細い思いをしたであろう
自分で渡しにいく勇気がなくて、源に託した。
花束を手にした佐久良売さまを一目見たくて、あとから
そのあと、
オレの顔を見たら、もっと何か、あるんじゃないかと。
でも、
多分、オレが毒にやられても、
それが、わかる。
ちょっと、切ない。
でも、やっとわかった。
「感謝します。嶋成さま。ありがとうございます、ありがとう……。」
オレは、この言葉を聞く為に、ここに来たのかもしれない。
胸が熱い。
(やべえ、泣きそう。)
医務室に嶋成の仕事はない。嶋成は、こみあげてくる熱い思いを胸に、医務室をあとにした。
* * *
お姉さまへ。
お姉さま。いったい何が起こったのでしょう。
米菓子を平らげたあたしが医務室へ行ったら、
この
あたしが、つい、
こんな
と申し上げたら、
良いのよ、黄泉渡りしてほしくないの。
とおっしゃいました。
そうそう、副将軍殿には、佐久良売さまが文をお書きになりました。
(
あなたがおっしゃった言葉で、どうしようもなく辛く、大地をよろよろと、たたらを踏んで、居ても立っても居られず、どこへ行けばよいかわからず、朝霧で見えないなかをさまよい、命が消えるのなら、消えてしまうだろうというくらい嘆いているのです。)
あたし、しっかり副将軍殿に届けてやりました。
ふっふっふ、これくらい言ってやって良いのです。震え上がるが良いのです。
そう、なんとも美しい副将軍殿について、ご報告しなければなりません。
なんと、なんと、ご趣味が
それを聞いた
まさか
しかし、なかの一人が、副将軍殿は
若く美しき副将軍殿と、
何がどうなってどっちが攻め気なの、とあたしが塩売に訊いたら、何がどうなっては分からないが、あの体勢は副将軍殿が攻めである、と答えました。
だから……、確定なのです。
副将軍殿の為にも、あの益荒男は生き残って良かったのですね。
あたしは、ふがふが寝てる益荒男の髪を、こっそり、えいー、と力いっぱい引っ張っておいたので、これで許してあげる事にします。
だって、
ふう、今日は筆がはかどりましたわ。美男と
* * *
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