第18話 制約

 翌日午前九時、部屋の入口に〈転移装置〉が出現した。身支度に不備がないか確認し、三人は光の雨に身を投じる。瞬く間に視界が白く染め上げられていく……。


「んっ……」


 目を開くと、降り注ぐ陽光が瞼を焦がした。三日ぶりの日差しだからか、いやに眩しく感じられる。もっとも人工的な光か自然光かは定かでないが。


 光に目を慣らすためにぱちぱち瞬きを繰り返し、まずはいつも通り状況確認に努める。


 周囲には大勢の参加者がいる。レンとカリナの姿もあった。今回は前回と異なり、最初から参加者が同じ場所に集められているようだ。


 視線を上向ける。くるりと周囲を軽く見渡し……なるほど、自分が円形闘技場のような場所にいるのだと理解が追いつく。舞台を取り囲むように設置された、階段めいた緩急のある石造りの腰掛け椅子は、如何にも闘技場といった風だ。


 視線を下向ける。足下は砂で埋め尽くされている。誰かが動くたびに、じゃりっと砂利の擦れ合う軽やかな音が奏でられる。平坦な砂上。遮蔽物のようなものは一切置かれていない。


 果たしてここは塔の内部なのかと疑わずにはいられない広々とした闘技場だった。


 これまでの近未来的試練会場とは一風変わった、石造りが目立つ古色蒼然たる試練会場。頭上に広がる一面の青は、科学の織り成す技か。どこまでが天然物で、どこまでが科学の産物かはツキクサにも区別がつかない。

 それほどまでに、ルスティカーナの科学技術は発達している。〈エボルバー〉の苦痛を礎に、ルスティカーナの科学技術は日々進歩している。


 ほどなくして運営の女性がやってくる。一礼して口を開いた。


「皆様おはようございます。本日はこの場所で、第三試練を行います」


 辺りに漂う空気が切迫していく。多くの人が察しているのだろう。ここは闘技場、そこで試練を行うという宣言がなにを意味しているのかを。


「第三試練の内容は、三対三のチーム戦です。第二試練を共にクリアし、昨晩同じ部屋で過ごされたお三方をひとつのチームとさせていただきます」


 レンとカリナが視線を向けてくる。どちらも嬉しげな顔をしていた。

 ツキクサは微笑み混じりに頷きを返し、続く運営の言葉に耳を傾ける。


「また今試練は勝ち上がり形式ではなく、一勝した時点で次の試練の参加を確約――最終試練出場決定とさせていただきます。つまり、二十チームの内十チーム――最大三十名の方が最終試練に臨む資格を得ることができる、という次第になります」


(二十チーム?)


 疑問を覚えたのは、この場に間違いなく六十人以上の参加者がいたからだ。


「またこの試練は三人での参加が必須条件となりますので、必要定数を満たされていない方々はその時点で脱落とさせていただきます」


 湧き上がった疑問はすぐに解消された。ざわざわと戸惑いの波が生じ、確かにどよめいた参加者を間引けばそれくらいのチーム総数になりそうだなと、ツキクサは納得した。


「勝利条件は、相手チームを戦闘不能にすることです」


 つまり、必ずしも命を奪う必要はないということ。どれだけの人間がそう解釈しているのかはわからないが。


「試合表につきましては、説明終了後に上空に3Dホログラムを投影いたしますので、そちらをご確認ください。今試練は命を落とす危険性があります。参加を辞退したいという方がおられましたら、〈転移装置〉からお帰りいただいて構いません。ただ、その時点でその方の所属されるチームは不戦敗ということになりますので、ご了承のほどお願いいたします」


 無駄な説明だ。辞退したいと願うのは気弱な人間だろう。そんな人間が、残るふたりに引け目を感じながら保身に走るとは思えない。嫌々ながらも第三試練に参加する

のだろう。


「それでは、皆様のご武運を心よりお祈りしています」


 深々と頭を下げて運営が話を締めくくると、参加者の半数ほどが忽然と姿を消した。第三試練の参加資格を持たない者たちだろう。


「わからないな」


 なぜ殺し合う必要のない場面で殺し合うのか、ツキクサには理解できなかった。


 殺さなければいけない場面以外では、一切の殺戮に及ばない。

 それはツキクサが自身に課している制約だった。

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