初恋未遂
目が覚めると、5時28分。病院の朝食は7時半からだから、少し早く起きてしまったようだ。暇になってしまったので、少し病院内を散策してみることにした。そういえば、この病院にはテラスがあるらしい。ちょっとした庭も作ってあるので、患者さんの憩いの場だそうだ。よし、行ってみよう。ここを真っすぐ進んで、右に曲がる。そしてまたまっすぐ進む。歩いていくと、意外とすぐにテラスに着いた。思っていたより大きくて、開放的だ。花も植えてあるし、ベンチもある。なるほど、人気なわけだ。少し散策してみる。...ん?誰かいるな。うーん...男の子?え、まさかあの瑠生っていうやつ?恐る恐る近づいてみると、背の高い人だった。目は凛としていて、口は固く結ばれている。どうやら瑠生ではないようだ。
「あの...隣、座ってもいいですか?」
「ん?ああ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
隣りに座ってみると、本当に身長が高いことがよく分かる。一メートル百九十センチくらいかな?もっとあるかも。
「あの、高校生の方ですか?」
「うん。君は?」
高校生なんだ。多分だけど私より年上だ。
「私は...分からないです。ごめんなさい。えっと、お名前は?」
「そっか。僕は早馬っていうんだ。早いってかいて、馬で早馬って読む。君は?」そうま。きれいな響きの名前だな。
「私は...美月?っていうらしいです。」
「らしい?自分の名前なのに?」
「あー、何か記憶喪失?っていう奴らしくて、自分のこととかも全然覚えてないんです。」
「そっか。早く記憶が戻るといいね。」
「...はい。」
「美月かぁ...いい名前だね。綺麗な響きだ。」
「いや、早馬さんこそ!ってか、私もいま同じこと思ってました。(笑)」
「あはは(笑)そうなの?」
「はい(笑)」
「そういえば、いつここに入院してきたの?」
「たしか一週間前って言われました。実は私、自殺しようとしてたらしいんです。笑。」
「...そうなんだ。」
「すみません。こんな話しちゃって。重いですよね。」
「いやいや。辛かったんだね...僕はね、ちょっと故障しちゃって、1ヶ月ぐらい前からここにいるんだ。故障する前は、毎日すごく楽しかったんだけど、もうできないから...」
故障?運動部だったってことかな。何があったんだろう?
「?そうなんですか...」
「うん。あ、もうそろそろ朝食だから戻ろうか。」
いつのまにか7時半になっていた。時間がすぎるのは早いものだ。本当に。
「そうですね。...あの!また会えたら話してもいいですか?」
「うん。また会えるといいね。じゃあね。」
「はい!」
そう言い、彼と別れた。また会えるといいな。そう心のどこかで思っていることは秘密にしておこう。スキップをしようとしたら、盛大に転けて看護師さんに怒られた。そういえば、骨折していたんだった。完全に忘れていた。それだけ早馬さんと話せて浮かれているということなのだろうか。あの透き通った声、ガラスのような瞳、思い出すだけで胸がキュッと締まる感覚。早馬さんの顔を思い浮かべるだけで天にも昇れそうな気分だ。これを恋と言わずして何というのだろう。でも、会って少し話しただけなのに、こんなに好きになってしまうなんて、私って軽い女なのかな?いわゆる一目惚れってやつか。ちょうど太陽が顔を出した。まるで神様の後光みたいだ。人生初(?)の恋、成功するように祈っておこう。
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