最悪の目覚め

東京都渋谷区。午後23時42分。救急車のサイレンが鳴り響く中、少女は眠っていた。ビルに付いたモニターから響く、アナウンサーの声。意識が朦朧とする中、なんとか聞き取った。

『14歳の少女が自殺未遂。意識不明の重体です。警視庁は事件の可能性があるかーー』

私の間違いが、日常を壊してしまった。たった、あれだけのことが、すべてを狂わせた。ああ、もうどうでもいいや。そう思った。そして、気づいたときにはベランダから飛び降りていた。それから先のことは、よく覚えていない。そんなことを考えることも辛くなって、私はもう一度目を閉じた。

次に目を覚ましたのは、消毒液の匂いが鼻をつくところだった。ここは多分...病院?そして、隣に、小学生くらいの男の子。学ランを着ているので中学生かもしれない。

「起きた!美月が起きたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

え、誰?めっちゃ騒いでるけど誰?

「ちょ、落ち着いて...あの、誰ですか...?」

「え?覚えてない!?」「いや誰!?」

何このThe漫画みたいなシチュエーション。もしかして私主人公か何かに転生でもしたのかな?ああ、そうだといいんだけど。いややっぱだめだって!頭の中がめちゃくちゃ混乱している。よし、一回落ち着こう。息を吸ってー、はいてー、吸ってー...いや無理だ。

「すいません、本当に誰ですか?」

「え、ほんとに覚えてないの?僕だよ!瑠生だよ!?覚えてないの!?」

「はい...」

いやほんと誰...?迷惑なんだけど...ガラっとドアの開く音がした。そして、誰かわからない人が増えた。見た目からしてきっと医者だ。白衣を着ているし、聴診器を首から下げている。

「やあ、体調はどうだい?」

「先生!おはようございます。」

「先生?」

「どうも、主治医の内田です。よろしくね。」でも、悪い人ではないっぽいな。主治医って言ってるし。

「あの...私、どうなってたんですか?」

「ん?君は7日前にこの病院に来て、ずっと寝たきりだったよ。ここに運ばれてきたときは、意識不明でかなり危ない状態だったけど、今は命に別状はないから安心して。病状は骨折。全治2ヶ月ってとこだね。」

うそでしょ...一週間も寝てたの?しかも全治2カ月の骨折。

「え、私なんでこんな事になってるんですか!?」

「おや、覚えてないのかい?記憶障害もあるようだ。君は自殺をしようとして8階のベランダから飛び降りたんだよ。まあ、命は助かったし、意識も戻って良かったよ。」

「先生、美月は僕のことも忘れちゃってるみたいなんです!」

「そうかい。憶測だが一時的な記憶喪失だと思うよ。まあ、しばらくは安静にしているように。僕は少し急ぐからこれで失礼するよ。そのうち親御さんが来ると思うから、それまでゆっくりするといい。では!」

なんだか勢いのある人だなあ。

「あ、そうだ瑠生君!今多分状況がよくわからないと思うから詳しく説明してあげといてね〜」

てか、自殺?記憶喪失?わけがわからない。しかも、私、誰?名前も分からないし、なにも思い出せない、

「ねえ、君は誰?私の名前は?」

「僕は石井瑠生だよ!!君の同級生。っていうか、幼馴染だね。幼稚園から一緒だよ。そして、君は谷崎美月。他にも何か言ったほうがいい?」

「いや、いいよ。ありがとう。」

これ以上いろんなことを聞いたら、頭がパンクしそうだ。

「私は、美月。」

うーん、やっぱりなにも思い出せないや。まあ、名前が分かればどうにかなるか。またゆっくり聞いてみよう。そう考えていると、猛烈な睡魔が襲ってきた。抵抗することもなく、私は眠りについた。

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