第4話 仕組まれた転校生~だからぼくは君を護るよ

よくつばさの学校に転校して来たのは、明らかに護衛の為で、たすくが転校して来ないのは年齢の問題だった。


「学校まで来る必要あるの?」

「あるよ、誰が敵かわかんないし」


昼休みに屋上前の階段の踊り場で話し合う。

菓子パンを開ける手が、滑りそうになる。

ふわふわなたまごの蒸しパン、まさに平和って感じの味の。


「その事件ってもう警察が片付けて終わったんじゃないの?」

「まぁそう言って蓋をしても良いんだけど…それが出来ない人間が居るんだよね」

「敵??」

「分からない。もしかしたら片付けられないのはこっちの方、被害者側の方なのかも」

「そっか…」

「本人が言ってないから、ちょっとアレだけど。知っておいた方が良いと思うから言うね」

「何?」


よくが神妙な面持ちで言う。つばさが息をのんだ。



「殺されたのはたすくなんだ」


「…え」


話を聞いても、正直現実味なんて無かった。

テレビのニュースを見ているみたいな感じで、何処か他人事だったのだ。

其れが一気に現実味を帯びてぞわっと鳥肌が立ち、つばさは身震いした。


「それって…」


警察が強盗殺人事件として片付けても、当事者の家族は本当の事が知りたいに決まってる。

心臓が、急にぎゅっと締め付けられた。

ドクンドクン、と脈打つ音がうるさかった。


を感じた。


「過去の事件じゃ片付けられないよね。たすくは自分の人生を懸けて本当の事件の真実を突き止めようとしてる。ぼくは、たすくの事好きだし、大事だと思ってるから、出来る限り協力したい」

「うん…」

「でも、つばさの事も大事にしたい、なるべく巻き込みたくないけど、其れはきっとムリだから…」


よくつばさを真っすぐ見詰めて言った。


「だからぼくは君を護るよ」

「!!」


こいつ、恥ずかしい事を平気で言うタイプだ!


さっきまで恐怖に震えてたのに、今なんかドキッとした事に、たすくへの罪悪感みたいなものが沸いた。

別にたすくの彼女でも何でも無いのに、いや、多分これはドキドキしたりしてる場合じゃないって理性かもしれない。


羽根が生えた日から、感情が忙しかった。

数日前まで呼吸が上手くできないような、閉塞感をずっと感じていたと思えない位、今をリアルに感じてた。

でも、これは、素直に喜んで良い事態じゃない、と思うから…複雑な気持ち、だった。


一か月ほど、何も動かなかった。

事件の手掛かりも、敵の姿も無く。


桜乃野道との協力関係は、たすくには言わないで居た。

厳密に言うと、言えないで居た。


たすくは猫が苦手だ。嫌いになる十分な理由がある。


でも、向こう側との協力無しでは事態は進展しないと、よくは確信していた。


賢く立ち回る必要が、ある。


よくが真剣な顔をした。




賢く立ち回らないと。と、桜乃野道は思う。

この一か月、チャンスを伺っていた。


本家の事件の犯人に、接触するのはやはり恐怖を感じる。

能力も猫の本能も自分と違って、コントロール出来ない種類の人種なのだろうか?と。


其れが急に呼び出された。

本家の、あの事件の、真犯人に。


和室の襖を開けて、「お久しぶりです」と挨拶する。

本家の人間とは余り接触して来なかったのに、何で今。


部屋を見たら、先客が居た。


「お前は…高津たかつだっけ?」

「よお、久しぶりじゃん。野道だっけ?」


高津は野道を見て少し笑った様にみえた。

部屋の奥に居た沙花凪さかなぎが、口を開いた。


「高津と野道。ふたりを呼び出したのは他でも無い。最近


「で???どうしたらいいんですか?」


野道が結論を急かした。


「気に食わないな…」

「何でですか?」



喉元まで出掛けた言葉を野道は飲み込んだ。

一応犯人は、連続強盗殺人事件の犯人って事になってる。

目の前の人間、いや、人間じゃないのかもしれない…は罪を逃れてのうのうと生きてる。


自分にとって都合の悪い人間は殺すタイプの狂人なんだろうか??


「其れは、こちらが猫で本能的に鳥は狩るものだからだよ」

「本当にそれだけですか??」

「…野道」

沙花凪さかなぎさん!」


「いけない子だ。それ以上の詮索は、身を滅ぼす事になる」


堪らず声を上げた野道の唇に、沙花凪さかなぎが人差し指を押し当てた。


「し~っ」


とだけ言って、本題に入る。


「野道と高津は、能力をコントロールする術に長けている。序に言うと、だ。学校に侵入して、忌まわしい存在をふたりなら可能だろう?」

「それは、誘拐…?」

「鳥は鳥かごに入れるまで」

「捕まえてどうするつもりですか?」


野道は疑問を臆せず口にした。


「子供は知らないでいい世界があるものだ」

「拒否権はない感じですね」


高津が観念した様に呟いた。


「ふたりの分の


薄い黄色いシャツ、黒いネクタイ、黒いズボンが渡された。


「行っておいで、きちんと仕事をこなしてかえるんだ」


沙花凪さかなぎが、細い瞳を更に細めて、言った。

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