わんこそば

口羽龍

わんこそば

 春太は疲れていた。定時では帰れるものの、なかなか仕事についていけない。だけど、上司の命令には耐えなければならない。大変だけど、仕事をしてお金を稼がなければ、生活できない。そして、人間として成長できないと思っていた。


 春太は自宅のマンションの最寄りの駅に着いた。ここから自宅のあるマンションまでは歩いて10分ぐらいだ。駅に着くと、多くの人が下りる。ここは住宅街で、帰宅時間には多くの人がここで降りて、それぞれの自宅へと向かう。


「今日も疲れたなー」


 春太は肩を落とした。今日は月曜日。平日がまだ始まったばかりだ。まだまだ疲れたと言っている場合じゃない。金曜日まではまだまだ長いんだ。気合を入れないと。


「あれ? このそば屋、何だろう」


 春太は上を向いた。そこにはそば屋がある。店名は『大神』だ。最近、ホームに降り立てばすぐに電車に乗っていたので、全く見ていなかったが、こんな駅そばができたんだ。たまたま見つけた。今日はここで食べていこう。


 春太はそば屋に入った。そば屋には数人の人がいて、そばをすすっている。


「らっしゃい!」


 春太はメニューを見た。掛けそばの他に、天そば、山菜そば、月見そば、天玉そばがある。そして、稲荷寿司やおにぎりのサイドメニューもある。


「かけそば」

「300円ね」


 春太は財布から300円を出した。


「はい!」


 すると、店主はお金を取り、すぐにそばをゆで始めた。いたって普通のそば屋のようだ。


 1分も経たないうちに、かけそばができた。とても早い。ここも一般的な駅そばのようだ。


「へいおまち!」

「ありがとうございます」


 と、春太はある物が目に入った。ポイントカードだ。この店にはポイントカードがあるようだ。なかなか面白い店だな。


「あれ? ポイントカード?」


 と、店主がその声に反応した。


「はい、うち、ポイントカードがありまして、全部貯まったらプレゼントがあるんですよ」


 この店にはポイントカードがあるらしい。ポイントカードはいくつか持っているが、まさかそば屋でもあるとは。


「そうですか・・・」


 春太は店を出ていった。早く家に帰って、くつろごう。今日は疲れた。しっかりと体を休めよう。


「このポイントカード、何だろう」


 春太はポイントカードが気になっている。全部集めると、どんな特典があるんだろう。楽しみだな。全部集めてみたくなるな。


 春太は前を見た。今日も1日疲れた。だけど、また明日も仕事だ。気合を入れないと。


「はぁ・・・」


 だが、ため息が出てしまう。本当にこの先、やっていけるんだろうか? 生活を支援してくれる誰かがいないと、とてもつらい、手伝ってくれれば、仕事に集中できそうなのに。家事は全部自分でしなければならない。いつまでこんな日々が続くんだろう。早く結婚して、家事をしてくれる女性が欲しい。


「週末まではまだ遠いなー」


 春太は家に帰ってきた。家に帰っても、誰も迎えてくれない。だが、そんな生活に慣れてきた。高校を卒業して、東京に住んで以来、1人暮らしを続けている。こんな日も当たり前だと思っている。つらいけど、早く好きな人を作って、家事をしてほしいな。


 と、春太は何かが見られている気がして、ベランダをのぞいた。そこには犬がいる。犬は太一を見ている。どうしてここにいるんだろう。野良犬だろうか?


「何だあの犬・・・」


 春太は時計を見た。もう寝る時間だ。さっさと寝る準備をしよう。


「もう寝よう・・・」


 春太は部屋の明かりを消し、ベッドに横になった。明日はもっといい日でありますように。




 ポイントカードを貯めるために、春太は週に1回はそば屋に行くようになった。その間に、月見にしたり、天ぷらにしたりといろんな味に挑戦したりもした。どんな特典があるのかは、ポイントカードには書いてないけれど、ぜひ全部貯めてみたいな。


「春太、あの店、知ってるか?」


 と、後ろから同僚の榎本(えのもと)がやってきた。春太を兄貴分のように慕っている社員だ。


「何の事?」

「大神っていうそば屋」


 と、榎本は反応した。そのそば屋の事を知っているようだ。まさか、榎本も知っているとは。あの駅が自宅の最寄りじゃないのに。あのそば屋はチェーン店だろうか?


「あぁ、あそこ? 最近、週1で行ってるんだ。なかなか好評で、ポイントカードもあるって」

「知ってる! でも、そば屋でポイントカードって、珍しいな」


 榎本も珍しいと思っていた。ポイントカードがあるそば屋って、珍しいな。どんな特典があるのか、榎本も興味が湧いているらしい。


「全部貯まると、何らかのプレゼントがあるらしいけど、何だろう」

「さて。全く想像がつかないな」


 2人はニヤニヤしていた。お金だろうか? 一杯無料だろうか? それとも旅行だろうか? いずれにしろ、楽しみだな。


「でも、ワクワクするな」

「うん」


 2人は思った。絶対集めて、何らかのご褒美をもらおう。




 それから春太はそのそば屋によく行ったおかげで、ポイントが貯まるまであと1ポイントになった。次に一杯頼めば、何らかのご褒美があるようだ。どんなご褒美だろう。


「次でようやくポイントが貯まりそうだ」


 春太は仕事帰りに再びそのそば屋にやって来た。そば屋の前には1人の男がいる。その男は鉄道オタクのようで、鉄道関連のグッズを付けている。今は青春18きっぷの時期だ。鉄道旅行だろうか? 自分は興味がないが。


「いらっしゃい!」

「天そばで!」


 春太は500円玉を出した。天そばは500円だ。店主は500円玉を取ると、すぐに作り始めた。かき揚げはあらかじめ作ってある。あとはそばをゆでてつゆを入れるだけだ。これまた手早い。


「へいおまち!」

「ありがとうございました!」


 春太はすぐに天そばをすすり始めた。通っているうちに、ここのそばのとりこになった。


 春太は食べ終わると、ポイントカードを出した。今日でポイントが全部貯まる。


「あのー、今日でポイントが貯まったんですけど」

「えっ、本当?」

「うん」


 春太はポイントカードを差し出した。確かに今日で全部貯まる。これは何らかのご褒美をしなければ。


「あっ、じゃあ、プレゼントだね。プレゼントは後程だよ」


 店主は笑みを浮かべた。どんなご褒美があるんだろう。春太は期待していた。


「ありがとうございました!」


 春太は店を出た。そして、自宅に帰った。ご褒美は後日、わかるだろう。その時まで楽しみにしていよう。


「何がプレゼントだろう。楽しみだな」


 春太は帰り道を歩いていた。なぜか今日は足取りが軽い。ポイントが貯まったからだろう。それだけでどうして足取りが軽いんだろう。理由はわからない。


 春太は自宅のあるマンションを見上げた。だが、春太はおかしなことに気が付いた。自分の部屋に明かりがついている。誰かがいるんだろうか? まさか、強盗だろうか? 早く帰らないと。春太は急いでマンションに向かった。


 春太は大急ぎで自宅の玄関の前にやって来た。そして、ドアを開けようとした。だが、鍵がかかっている。どうしてだろう。春太は鍵で玄関を開けて、中に入った。


「誰だ!」

「おかえりなさいませ、ご主人様!」


 春太は大声を出した。だが、そこにいるのはメイド服を着た犬の獣人だ。どうやら女性のようだ。どうしてここにメイドの女性がいるんだろう。しかも獣人だ。頭からは耳、メイド服からは犬の尻尾が生えている。


「えっ、えっ・・・」

「どうしたの?」


 獣人は笑みを浮かべている。春太の帰りを待っていたかのようだ。春太は戸惑っている。まさか、獣人のメイドが家にやってくるとは。全く想像できなかった。てか、これがあのそば屋のポイントを貯めたご褒美かな?


「い、いや、何でもないよ・・・。ただいま・・・」

「もっと元気に言ってよ!」


 獣人は元気がよい。まるで春太の事が好きなようだ。


「ただいま!」

「お風呂にする? それとも、お酌?」


 春太はドキドキしている。あまりにも可愛い。これからどうしよう。今日は疲れたから、お風呂に入ろう。


「それじゃあ、お風呂で」


 春太は部屋の奥に行くと、服を脱いだ。メイドはその様子をジロジロ見ている。春太はその視線が気になった。


 春太はお風呂に入った。その間、メイドは家でくつろいでいた。まるで恋人のようだ。春太はお風呂に入っている間、考えていた。あのそば屋は何だろう。ポイントを貯めたご褒美はまさか、これだとは。


 約20分後、春太はお風呂から出てきた。獣人は部屋でくつろいでいる。


「あー、さっぱりした!」

「今日も1日お疲れ様!」


 獣人は笑顔だ。笑顔だけでも心が落ち着く。どうしてだろう。


「ありがとう」


 と、獣人は冷蔵庫から2本の缶ビールと柿の種を出した。明日は休みだ。その時のために取っておいた。だが、1本しか買わなかったのに、2本もある。まさか、獣人が買ってきたんだろうか?


 テーブルに置くと、春太は缶ビールを開け、飲み始めた。すると、獣人も缶ビールを開け、飲み始めた。


「おいしい?」

「おいしい!」


 春太はあっという間にいい気分になった。ビールを飲んだからか、家事をしてくれる獣人が来てくれたからか? 自分にはわからない。


 後でわかった事だが、このそば屋は獣人が経営していて、ポイントカードが貯まると1か月限定で獣人のメイドがホームステイをしに来て、世話をしてくれるらしい。

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わんこそば 口羽龍 @ryo_kuchiba

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