第2話 ダンジョン
あれからどのくらいの時間が立ったのだろう。すでにスピードウルフは消えていて、俺は一人で歩いていた。スピードウルフが消えたあとの自分は自己嫌悪に襲われなんども吐いた。
「せめて遺体だけでも…」
俺はそう思い来た道をゆっくりと戻り始めた。いつも話しかけてきた仲間はもういない。一人で歩いている。一人静かな道を歩くという現実はとても辛いものだった。
「ウッッ…ヴォエ」
俺はあの光景を思い出してまた吐いた。俺に優しく接しながらもだめなところは本気で怒ってくれた父親のような存在であったリョウ、幼馴染で親友のアリタ。そして幼馴染で俺の初恋のレシア…
「憎い…」
これは赤龍だけに向けたものではない。あの時行動できず仲間を見捨てた俺にも向けられていた。すでに涙を搾り出された俺の顔は酷く腫れていた。今は思い出したくもないのに、俺の頭は赤龍に惨殺された仲間達のあの光景を鮮明に思い出させてくる。やめてくれ。本当に辛いんだ。しかし、今はもう何度も泣いてしまったことが嘘のように泣くことがなくなった。俺は親友達の死に対して泣くことができなくなったのだ。
「あっ…」
しばらく歩いているとあの忌々しい赤龍との戦闘があった場所についた。遺体を探さなければ。しかし、できれば見たくない。あのときの様子を見たら誰だってあれは死んだと思うものがいるかもしれないが、だとしても生きていると言う期待は捨てたくない。
「ヴォエェ…ゲホッッゲホッ」
だが、現実は常に非情だった。俺は仲間の遺体を見つけてしまった。
一番最初に見つけたのは俺が大好きな、愛してやまないレシアの遺体だった。最悪なタイミングだった。俺の期待はもうこの時点で完膚なきまでに打ちのめされたのである。俺は彼女を抱きかかえる。せめて土葬させなきゃ報われない…こう思うのはきっとこれは俺の自己満足のせいだろう。俺は死に遅れた。俺は仲間を見捨てた。俺がやっているのは許しを乞うような行動に過ぎない。俺はさらなる自己嫌悪を覚えつつも他の遺体を見つけ1か所に集める。
「なんだ…?」
ふとレシアの服に入っている封筒に目が行く。自分はそれを手に取り中身を見る。中には指輪と一通の手紙がし畳まれていた。
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マサトへ
私の柄ではないと思うけど、貴方が一向に気づいてくれないからこうしてお手紙を書くことにし○○た。私は貴方のことを愛しています。貴方は覚えていないでしょうが私は幼い頃にいじめられていた頃、貴方に助けてもらってから○○○○っております。もしできるのであれば……………
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ここで手紙は終わっていた。いや、本当はもう少し続いていたのかもしれない。けど俺には文字は見えなくなっていた。俺の目にはもう絞り出しすぎて流れないと思っていた涙が溢れだす。止まることも知らず洪水のように…問答無用で手紙を濡らしていた。
涙は止まることを知らない。手紙はここで終わっていたがこれはきっと俺に向けた恋文で、彼女からの告白で……
俺は泣いた。ただただ泣いた。もうこの世にいない初恋の人を思って。体が痙攣する。目がチカチカする。だけど涙は止まらない。涙はそれまで堰き止めていた何かが崩れたかのように勢い良く流れていくのであった。
今度こそ絞り出したと思えるほどの涙を流し終えた俺は目の周りを赤く腫らし不格好な顔を晒しながら彼女と俺の薬指に封筒の中に入っていた指輪をつける。もう動くことのない彼女の薬指にキスをする。俺とレシアとの結婚式だ。本当だったら、赤龍に会わなかったら…また現実は変わっていたかもしれない…俺は…俺はっっっ…俺達はっっっ…
「俺達が何をしたって言うんだ! ただ普通に暮らしていただけじゃないか! なんで俺達がこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ! なんでっっっ!! なんで俺達だけが!! 俺はなんで生き残されたんだ!! 誰がこんな法則を作ったんだ!! 呪ってやる!! この世のすべてを!! 殺してやる!! この世界の神を!!」
俺の心の中には憎しみと怒りが湧き上がった。
「なんで? どうして? なぜ俺達はこんな仕打ちを受けた? ただ楽しくクエストをこなし、他愛もない会話で笑いあっていた日常をなぜ奪われた? なぜ? どうして? 何故?」
答えが出ることがないことはわかっている。だが今の自分はこうでもしないと今すぐにでも狂ってしまいそうだった。いや。もうすでに狂っているかもしれない。
そんなことを続けていると突然頭に機械的な女性の声が聞こえて来た。
『この世への憎しみと怒り、抗神の志を確認しました。これより闇クエスト、[神への反抗]が開始されます。』
目の前にダンジョンが出現した。先程の神への反抗とはどういうことだろうか。よく分からない。だが、くそったれな神へ一矢報いることができるのではないかとすがるような気持ちでそのダンジョンを見つめた。
「レシア…」
その後俺は彼女の遺体を埋めた。ここには誰も来ないだろうがこうせずにはいられなかった。どうか許してほしい。俺はそう思いながら彼らの墓に墓標を立てた。そして…
「行ってきます」
俺は最愛の妻であるレシアと最愛の友であるリョウ、アリタに向けそう言いながら先程の結婚式でつけた彼女との永遠の誓いの指輪にキスをしダンジョンに挑むのであった。
「俺の憎しみ、怒りをあのクソッタレな神と赤龍にぶつけれる力が手に入るのであれば、なんたって…」
俺の決意は今、こうして決まったのである。
『ようこそ。抗神の試練の場へ』
またも機械的な女性の声が聞こえる。それと同時にダンジョンの入り口の扉が閉まる。
「かかってこい」
俺はただ一言、呟いた。
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本作2話目です。大抵自分は思いつきで書いてしまう癖があるので直していきたいところ……これからも頑張って投稿していきますので皆様よろしくお願いします!!
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