第25話 昔話をしようか。
かつて、この世界は神界でした。
その名の通り、生命体の大部分が神であり、人間や魔物、特に人間は「神の突然変異種」というのもあって、数が少なかったのです。
この『神界』を作ったのは他でもない四大神様でございました。そして、四大神様をお作りになられたのは、遙か上の存在────『創造主』様です。
あの方は姿こそお目にかかることは出来ませんでしたが、常日頃我々を、特に四大神様を気にかけてくださっておりました。
それもあって、四大神様を中心とした神々は、このアンダラスの地で平和に過ごしておりました。
……その平穏を壊したのが、皆様も知っている『魔王』です。
あの忌々しき魔王は、今でこそただの魔族の上位互換でしかありませんが、当時は通常の魔物と違って、半身が神でした。
それもあって、私たちは劣勢を強いられたのです。
最終的には我々で魔王を封印し、何とか壊滅の未来は防ぐことが出来たのですが……。
────あの魔王が繰り出した、『神堕とし』という技によって、ほぼ全ての神が、神から人間へと化してしまいました。
それは四大神様も例外ではありませんでした。
しかし、唯一神のまま────正確には、神であった頃の記憶を保持したまま転生を繰り返すことが出来た者がいました。
それが、今の私たちです。
私たち────エルザ、ルーナ、ティア、リリー……そして、この場に姿を現していないもう一人は、『五つの神魂』として、四大神様に仕えておりました。
私たちは、この世界を神界に戻す為の役割を担うために、特別に、創造主様から『神堕とし』の効果を解除していただきました。創造主様は、本当はこちら側の世界に干渉しないのですが……記憶を保持しない者だけで元の世界を取り戻すのも、無理な話だと思われたのでしょう。
ですが創造主様は、私たちの記憶を保持させる代わりに、そして、二度とこのようなことを起こさない為に、ある試練を四大神様を中心とした私たち九人に課されました。
それは、四大神様たちが自分たちの記憶を取り戻すことと、この世界を、以前のような悲劇を生み出さないような世界に作り変える、というものです。
それを達成すれば、四大神様が今世を終えた時、この世界は再び神界に戻ります。
それこそが、我々の悲願、そして、唯一の願いなのです。
◆◇◆◇
この話を聞いて、私はあることを思い出した。
つい先日に探索した、『神々の庭』────そこにあった、史実と異なる謎の壁画。
あれは事実と異なっていたんじゃない。あれこそが真実、なのか。
エルザは話終えると、少しだけ俯いた。ぎりぎりのところで顔が見えない。……まるで、顔を隠しているみたい。
「……貴女たち四人は、今までずっと……記憶を持ったまま、俺たちに記憶を取り戻させるために転生を繰り返していたのか? ……何百年間も」
ジル殿下のその言葉にはっとする。
そうだ。ジル殿下たちはそもそも前世の記憶なんて無いだろうし、私も曖昧な部分があったりするから、全部を覚えてるわけではないけど、この四人は違う。
ずっと────ずっと、記憶を持ちながら、私たちの記憶や力が戻るのを待ち続けていてくれたのか。
何度生まれて、何度死んでも。例え私たちの記憶が戻ることがなかったとしても。……何度も転生を繰り返していたら、もしかしたら、私たちと敵対していたこともあったかもしれないのに。
私たちが動揺していると、ルーナが悲しそうに微笑んだ。
「……でも、その転生があったから、今の私たちがいるんです」
笑っているけれど、泣いているのを我慢しているようにも見える。
それはルーナだけじゃない、他の三人もそんな感じで。
私たちは、何を言えば正解なのか、分からなくなってしまった。
「……今更なんだが。さっき言っていた『五つの神魂』とは、どういうものなんだ? ……あと、一応確認で、誰がどの神の生まれ変わりなんだ?」
ティア様が持ってきてくれた紅茶を飲んで、少し落ち着いた後、ジル殿下がそう問いかけた。
その説明をすっかり忘れていたのか、エルザははっとしたような顔で慌ててカップを置く。
「申し訳ありません、説明し忘れていました。そうですね、まずは四大神様について説明いたします」
そう言うと、彼女が先ほど、ジル殿下と一緒に王城の特別な書庫から持ってきた本を手に取った。
「こちらをご覧ください。これが、四大神の本名と司っている力です。教科書の補足に載っているぐらいの内容なので、あまり触れたことはないと思いますが……聞いたことはあるかと思われます。そして、四大神様が司る力と、皆様の能力は、少なからず一致している部分があるかと思われます」
開かれたページを見ると、そこには各神たちのことが細かく書かれていた。
◇◇◇◇
四大神
愛と創造の女神
マリア・アガピ・アーテーディテ
空間と真実の男神
ヴィル・アリスィア・デイモスカオス
笑顔と幸福の男神
フレア・オレクシ・ポイエフティア
命と知性の女神
ルイア・エウケー・アペルピスィア
なお、本によっては、上の神から順に、
「殺戮と狂愛の女神」
「恐怖と憤怒の男神」
「欲望と涙の男神」
「願いと絶望の女神」
と記されている場合もある。
◇◇◇◇
改めて目を通してみると、なるほど、確かに私の天恵と一致するところがある。例えば、マリアの破壊、創造なんかがそうだ(と、思って良いのだろうか)。
でも、他の三人はどうなんだろう。
「……俺の天恵と、ヴィルの
「はい、そうでございます」
「私の天恵と、ルイアの『願い』の力も一致していますね」
「……俺も、うーん、まあ天恵に関係してるっちゃ関係してるか」
うんうん、とフリードリヒ殿下は納得なさった。
天恵は基本プライバシーなので、皆がどのような天恵を持っているか、具体的には知らないけれど。話的に、多分、四大神の……
「はい。ですが、天恵以外でも一致する部分はあります。例えば皆さんの根本にある性格だったり、意志だったり……そういったものも、関係している場合があります」
それと、とエルザは言いながらページを捲った。
「『神々の詠唱』も、皆様が四大神の生まれ変わりである証拠です。そもそもこれは、皆様がかつて、独自に作り出した特別な詠唱魔法なので、皆様以外に使える方はいません。それを使えている時点で……皆様は四大神の生まれ変わりだと証明できます」
す、とページの中にある文章を指でなぞる。『ただし、この詠唱魔法は、四大神にしか扱えないものである』────……。
「……待て。マリー嬢とフリードも使えたのか?」
「……ん、ということはジル殿下も……?」
「……俺は使えたぞ」
戸惑ったようにジル殿下が言った。
「私も、以前一度だけ使えましたが……」
「……え、待って嘘だろ。俺まだ使えてないんだけど」
四人の中で一人だけ、ちょっと慌てたようにフリードリヒ殿下が声を漏らした。いや、それが普通なんですけどね。私たちが神の生まれ変わりでなければ、普通のことなんですけどね、使えない方が。
私たちの会話を尻目に、エルザはまた別の本を取り出した。今の四大神の本より、もっと古びた本だ。
「次に、私たちについてです。五つの神魂は、先ほども言った通り、かつて四大神に仕えていた神私達のことです。公にはされていませんが、こういった古代の本や、五つの神魂の末裔とされる家にある本には記されていることもあります」
そう言って、また本を見せてくれた。
……その内容を見て、私達は少し、驚いてしまった。
◇◇◇◇
五つの神魂
かつて四大神に仕えていたとされる神々。
法の神魂
魔神 エルザ・エキドナ・アマルテミル
神司力:法則・罪・怪物
五つの神魂の最高責任者との記録がある。
九つの名家アマルテミル家の祖先と言われている。
心の神魂
幻姫 ルーナ
神司力:幻・嘘
主に、四大神マリアに仕えていたとされる。
九つの名家ファンタズマ家の祖先と言われている。
守護の神魂
守護神 ティア・アテーナー・カンパニュラ
神司力:守護・忠誠
主に、四大神ヴィルに仕えていたとされる。
九つの名家カンパニュラ家の祖先と言われている。
力の神魂
武神 リリー・アグノーティタ・パーリィ
神司力:闘い・純潔
主に、四大神フレアに仕えていたとされる。
九つの名家パーリィ家の祖先と言われている。
命の神魂
精霊王神 (名前不詳)
神司力:命(一説によると魂)・知恵・願い
主に、四大神ルイアに仕えていたとされる。
◇◇◇◇
そう。五つの神魂と呼ばれる人々の名前と、目の前にいる四人の名前が同じなのだ。
これは偶然なのだろうか。それとも、必然なのだろうか。
それを聞こうか迷っていると、ルイス様がある名前を指差した。
「……この方は、今、どちらにいらっしゃるんですか?」
その人の名前を見ると、名前不詳────精霊王神ということだけが分かる、謎の五つの神魂がいた。
ああ、と何でもないようにエルザが答える。
「その方は、今、ルイス様のそのネックレスに封印されています。まあ、封印されていると言っても、ルイス様がお呼びすれば出てくるとは思いますが」
えっ、と四人でネックレスを見る。
ルイス様が、皆が見やすいように持ち上げたネックレスは、雫型の、青くて綺麗な宝石が付けられていた。
この中に、本当に……? とまじまじと見ていると、さらに衝撃的なことを言い始めた。
「その方は、唯一私達の中で自分の仕える主……つまりはルイア様の生まれ変わりに、ずっと付いていけているのです。それは、その方が精霊だから、もしくは願いの力でなのかは分かりませんが……」
なんと。つまり、何百年という時の中で、最も主と一緒にいられたのか。なんて感動的な……。
そう思っていると、ルイス様は不思議そうにエルザに問いかけた。
「……同じ五つの神魂なのに、名前を知らないのですか?」
「はい。というのも、その方はあまりにも力が強大なので、名前を知っているだけで、私たちの命まで吸い取ってしまうのです。……ですが、ルイア様は神司力が似た系統だからなのか、唯一その方と対面でき、直接お話出来ました。だから、ルイア様に仕えていたのだと思います」
私はその話を聞きながら、再度ネックレスに視線を向けた。
きらきらと輝く宝石。その光は、命の輝きなのだろうか。
その光を見ていると、何故だか、ふと不安になってしまう。
……五つの神魂は、私たちのことだけでなく、お互いのことまでよく知っているのに。
私たちは、何も知らない。
何度も生まれ変わって、使命を果たそうとしてくれていたのに……。
自然と布団を握る手に力が入った。
「……では最後に、今後の方針についてお話しします」
そう言うとエルザは、またスッ、と資料を私たちに渡した。
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