遠い昔の記憶

『───何をしているんだ?』


 そう話しかけると、彼女はふっと微笑んだ。


『別に。ただ、見ていただけよ』


『そうか』


 ただ見ているだけで、何が楽しいのか───そう言おうとしたが、思い返してみると、自分にも思い当たる節があった。


『本当に平和ね』


『……そうだな』


 満足そうに笑う。その笑顔は、慈悲に溢れていた。


『……ねえ』


『何だ』


『……もしも、私が死んでしまったら』


 その時は、よろしくね───


 つまらない冗談を言った後の彼女を、俺はまだ、見ていない。


 ◆◇◆◇


『おーい! そろそろ飯にしようぜ!』


『え!? さっき食べたばっかじゃない!』


『いやいや、もうだいぶ時間経ってるって』


 そう言うと、彼女は顔をしかめた。


『私は遠慮するわ、あんまり食べると気持ち悪くなる』


『えー、良いだろ別にー』


『あんたが良くても私が嫌。……それに』


 そう言って、彼女はふっと憂いを見せた。


『…………私は今、それどころじゃないから』


 彼女はいつからか、こんな表情を見せるようになっていた。


 ◆◇◆◇


『……大丈夫ですか?』


『……え、何が?』


『いや……元気が無いように見えたので』


 そう言うと、少し驚いたような顔をして、それからにっこりと笑った。


『大丈夫よ! 心配してくれてありがとう! ほーんと、あの男共とは違うわね!』


『……まあ、あの2人は気付いててもあまり口に出しませんから』


『あらそーお? あ、でも、本当に大丈夫だから』


 そう言いながらも、何かを耐えるような表情で


『私は、大丈夫だから……』


 と呟いた。


 今にして思えば、何であの時、気がつかなかったのだろう。


 ◆◇◆◇


『ふざけるな、ふざけるな……っ! お前達のせいで、こんなことになっているんだぞ……!』


『…………』


『お前達が、いなければ……っ!』


 そいつはぎゅっと顔をしかめて、震える声で言った。


『……ごめんなさい……謝っても、どうしようもならないけれど……ごめんなさい』


 ─────俺は、そいつに向かって魔法を放った。


 そいつが流していた涙が、魔法を反射して煌めいていたのは、今でも記憶に残っている。

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