第28話 四大神

 きい、と扉が開く音がした。


 その方向を見ると、雪の様な真っ白な髪と、闇の様な黒髪が見えた。


 こんな感じの白黒ペアと言って真っ先に思い浮かぶのは、ジル殿下とティア様だけど……この2人は、既にこの場にいる。


 今入ってきたのは、もう1ペアの、フリード様とリリー様だ。確かに、この2人も白黒だった……。


「待たせてしまってすまない。マリー嬢も、病み上がりなのに申し訳ない」


「いえ、大丈夫です」


 暴走状態から起きたのにも関わらず、まず最初に思ったのが、「ルーナ可愛い」でしたから。


 そう言おうとしたけれど、完全に余計なことなので、そっと心の奥底に仕舞っておくことにした。ちなみに私は暴走しているとき、ルーナに手を掛けようとしたらしい。首を切って詫びます。本当に申し訳ありません……っ。


 ……と、ここまで私がハイテンションなのも、この場の空気が重すぎるから。


 場の空気と反比例していくかのように、私の気分は上がっていく(正確には、無理矢理上げている、だろうか)。


 こんな重い空気が苦手だから、何とか平静を保とうと、無意識にハイテンションなのかもしれない……。


 それにしても、と周りを見る。


 なんだかやっぱり、奇妙なメンバーだ。


 ルーナ、エルザ、ジル殿下……はまだ良い。この場にいるのも納得できる。


 だけど、ルイスちゃん、ティア様、果てにはフリード殿下とリリー様。なんでこの4人までこの場にいるのか、全く理解できない。


 ただ心配して来てくれた、という訳でも無さそうだし……というかまあ、大事な用件があるって言われたからここにいるんだろうけど。にしてもだ。


「皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。マリーも、病み上がりなのにありがとう」


 エルザが、いつも変わらないキリッとした様子で話し始めた。


「本日は、私達─────エルザ、ルーナ、ティア、リリーから、マリー、ジル殿下、フリード殿下、ルイス様にお伝えしなければならないことがあります」


 エルザ、ティア様とリリー様を呼び捨てにするなんて、何があったの。


 そう聞こうとしたけれど、うん、今じゃない。あまりにもこの発言は空気を読んでいない。


 そう思って、何とか飲み込んだ。でも結構口から出かかった……。


 ─────しかし、そんなことも一瞬で吹き飛んでしまうぐらい、衝撃的なことを告げられてしまった。




「単刀直入に申し上げますと、皆様4名は、四大神様たちの生まれ変わりとなります」




 ……私は思わず、他の3人を見た。


 ジル殿下は怪訝そうにしかめっ面をしているし、フリード殿下は純粋に驚いている。ルイスちゃんは……相変わらず無表情だが、その雰囲気が困惑を物語っていた。


 まあ、やっぱりそうなるわよね、みたいな顔をして、エルザは話を続けた。


「皆様……正確には、フリード殿下を除いたお三方ですが……先日謎の男に襲われた時、それぞれ、『赤の神』『黒の神』『青の神』と言われたと仰っていました。その理由が、先ほど申し上げたことになります」


 エルザはそう言うと、彼女が先ほどジル殿下と一緒に、王城の特別な書庫から持ってきた本を手に取った。


「こちらをご覧ください。これが、四大神の本名と司っている力です。教科書の補足に載っているぐらいの内容なので、あまり触れたことはないと思いますが……聞いたことはあるかと思われます。そして、四大神様たちが司る力と、皆様の能力は、少なからず一致している部分があるかと思われます」


 開かれたページを見ると、そこには各神たちのことが細かく書かれていた。


 ◇◇◇◇


 四大神


 愛と創造の女神 

 マリア・アガピ・アーテーディテ

 神司力グー・ベル・ナーレ:破壊・創造・愛・狂気


 空間と真実の男神

 ヴィル・アリスィア・デイモスカオス

 神司力グー・ベル・ナーレ:空間・真実・恐怖・憤怒


 笑顔と幸福の男神

 フレア・オレクシ・ポイエフティア

 神司力グー・ベル・ナーレ:欲望・生死・悲哀・幸福


 命と知性の女神

 ルイア・エウケー・アペルピスィア

 神司力グー・ベル・ナーレ:願い・命・知性・絶望


 なお、本によっては、上の神から順に、

「殺戮と狂愛の女神」

「恐怖と憤怒の男神」

「欲望と涙の男神」

「願いと絶望の女神」

 と記されている場合もある。


 ◇◇◇◇


 改めて目を通してみると、なるほど、確かに私たちの能力と一致するところがある。例えば、マリアの破壊、創造、狂気なんかがそうだ(と、思って良いのだろうか)。


 でも、他の3人はどうなんだろう。


「……俺の能力と、ヴィルの神司力グー・ベル・ナーレの内の『空間』が一致している。ということで良いのか?」


「はい、そうでございます」


「私の能力と、ルイアの『願い』の力も一致していますね」


 興味深そうにルイスちゃん達が見ているのに対して、フリード殿下は困ったような顔をしていた。


「……俺は特に一致しているものは無いな」


「はい。ですが、能力以外でも一致する部分はあります。例えば皆さんの根本にある性格だったり、意志だったり……そういったものも、関係している場合があります。フリード殿下は、恐らくそのタイプかと」


 エルザが止まることなくすらすらと説明し続ける。────まるで、この事を昔から知っていたかのように。


「……ところで、私達が生まれ変わった理由は何なの? 私、ずっと祝福姫はマリアに産み出されたのかと思っていたけれど……違うの?」


「マリア様は少し例外な部分はあるけど、だいたい皆同じ理由よ」


 エルザは、私たちをすっと見据えた。


「転生した理由を説明する前に、皆様にしていただきたいことについて説明します。皆様は、四大神の時の記憶を取り戻し、尚且つ、全ての神司力グー・ベル・ナーレを回収する必要があります」


「……回収?」


「はい。……それに伴って、少し確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」


 私達は顔を見合わせた。まあ、必要なことなら……という感じで頷くと、エルザは少し安心したような顔を見せた。


「ありがとうございます。では、確認しますね」


 そう言うと、杖を私の額に向けて、目を閉じた。


 それをジル殿下、フリード殿下、ルイスちゃんの順に行い、全員の確認が終わった後、少し驚いたような顔をしていた。


「……意外でした。ほぼ全て回収し終えていたのですね」


「え、そうなの?」


 私がそう聞くと、エルザは頷いて、先ほどの本を取った。


「まず、フリード殿下とルイス様に関しては、全ての神司力を回収し終えています。ですので、後は記憶を取り戻すだけです。マリーとジル殿下はまだ回収し終えていませんが、そうは言っても、残り一つです」


 そう言ってエルザは、本に書いてある四大神の神司力グー・ベル・ナーレを指差した。


「マリーは『愛』を、ジル殿下は『真実』を回収する必要があります」


 愛と真実。


 ……愛と真実…………??


 どう回収しろと言うのか。恐らくジル殿下も同じことを思っていたのだろう、エルザのことを2人して見つめてしまった。


 そんな反応にもエルザは動揺することは無く、あっさり答えてくれた。


「正直、これはある種の『気付き』であると思います。もしかしたら、記憶を取り戻してから思い出す可能性もあります。今世中に回収していただければと」


「……こ、今世」


 だいぶスケールが大きい。しかし、エルザの話し振りからすると、もしかしたら、この神司力グー・ベル・ナーレをここまで回収するのに、何回も転生していたのだろうか。


 そんな私の思いを読み取ったのか、エルザは少し暗い顔で話し出した。


「……では、皆様の転生の理由を説明しますね。簡単に言うと、これは、創造主様からのご命令になります」


「……創造主?」


 私達は全員ぎょっと目を見開いた。創造主なんて、四大神のそのまた上の存在ではないのか。そんな存在が何故。


「……この話をすると、少し長くなります」


 そう言うと、エルザは開いていた本をぱたりと閉じた。


「そしてこれは────皆様の未来に、大きく関わってもいます」


 彼女のその目は、決意と悲しみが混じりあったようなものだった。

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