第29話 昔話
かつて、この世界は神界でした。
その名の通り、生命体の大部分が神であり、人間や魔物、特に人間は「神の突然変異種」というのもあって、数が少なかったのです。
四大神様、そして私たちは、このアンダラスの地で、神として平和に過ごしていました。
……その平穏を壊したのが、皆様も知っている『魔王』です。
あの忌々しき魔王は、通常の魔物と違って、半身が神のものと同じでした。
それもあって、私達は劣勢を強いられたのです。
最終的には我々で魔王を封印し、何とか壊滅の未来は防ぐことが出来たのですが……。
─────あの魔王が繰り出した、『神堕とし』という技によって、ほぼ全ての神が、神から人間へと化してしまいました。
それは四大神様も例外ではありませんでした。
しかし、唯一神のまま────正確には、神であった頃の記憶を保持したまま転生を繰り返すことが出来た者がいました。
それが、今の私達です。
私達─────エルザ、ルーナ、ティア、リリー……そして、この場に姿を現していないもう一人は、『五つの神魂』として、四大神様に仕えておりました。
私達は、この世界を神界に戻す為の役割を担うために、特別に、創造主様から『神堕とし』の効果を解除していただきました。創造主様は、本当はこちら側の世界に干渉しないのですが……記憶を保持しない者だけで元の世界を取り戻すのも、無理な話だと思われたのでしょう。
ですが創造主様は、私達の記憶を保持させる代わりに、そして、二度とこのようなことを起こさない為に、ある試練を四大神様を中心とした私達9人に課されました。
それが、先ほど言った、記憶を取り戻すことと、
それを達成すれば、四大神様が今世を終えた時、この世界は再び神界に戻ります。
それこそが、我々の悲願、そして、唯一の願いなのです。
◇◇◇◇
エルザは話終えると、少しだけ俯いた。ぎりぎりのところで顔が見えない。……まるで、顔を隠しているみたいだ。
「……つまり貴女達4人は、今までずっと……記憶を持ったまま、俺達に記憶を取り戻させるために転生を繰り返していたのか? ……何百年間も」
ジル殿下のその言葉にはっとする。
そうだ。私達は記憶が無いから、生まれ変わっても何も変わらないけど、この4人は違う。
ずっと────ずっと、記憶を持ちながら、私達の記憶や神司力が戻るのを待ち続けていてくれたのか。
何度生まれて、何度死んでも。例え私達の記憶が戻ることがなかったとしても。……何度も転生を繰り返していたら、もしかしたら、私達と敵対していたこともあったかもしれないのに。
私達が動揺していると、ルーナが悲しそうに微笑んだ。
「……でも、その転生があったから、今の私達がいるんです」
笑っているけれど、泣いているのを我慢しているようにも見える。
それはルーナだけじゃない、他の3人もそんな感じで。
私達は、何を言えば正解なのか、分からなくなってしまった。
◆◇◆◇
「……今更なんだが。さっき言っていた『五つの神魂』とは、どういうものなんだ?」
ティア様が持ってきてくれた紅茶を飲んで、少し落ち着いた後、ジル殿下がそう問いかけた。
その説明をすっかり忘れていたのか、エルザははっとしたような顔で慌てて本を開いた。
「申し訳ありません、説明し忘れていました。……五つの神魂は、先ほども言った通り、かつて四大神に仕えていた私達のことです。公にはされていませんが、こういった古代の本や、五つの神魂の末裔とされる家にある本には記されていることもあります」
そう言って、また本を見せてくれた。
……その内容を見て、私達は少し、驚いてしまった。
◇◇◇◇
五つの神魂
かつて四大神に仕えていたとされる神々。
法の神魂
魔神 エルザ・エキドナ・アマルテミル
神司力:法則・罪・怪物
五つの神魂の最高責任者との記録がある。
九つの名家アマルテミル家の祖先と言われている。
心の神魂
幻姫 ルーナ
神司力:幻・嘘
主に、四大神マリアに仕えていたとされる。
九つの名家ファンタズマ家の祖先と言われている。
守護の神魂
守護神 ティア・アテーナー・カンパニュラ
神司力:守護・忠誠
主に、四大神ヴィルに仕えていたとされる。
九つの名家カンパニュラ家の祖先と言われている。
力の神魂
武神 リリー・アグノーティタ・パーリィ
神司力:闘い・純潔
主に、四大神フレアに仕えていたとされる。
九つの名家パーリィ家の祖先と言われている。
命の神魂
精霊王神 (名前不詳)
神司力:命(一説によると魂)・知恵・願い
主に、四大神ルイアに仕えていたとされる。
◇◇◇◇
そう。五つの神魂と呼ばれる人々の名前と、目の前にいる4人の名前が同じなのだ。
これは偶然なのだろうか。それとも、必然なのだろうか。
それを聞こうか迷っていると、ルイスちゃんがある名前を指差した。
「……この方は、今、どちらにいらっしゃるんですか?」
その人の名前を見ると、名前不詳────精霊王神ということだけが分かる、謎の五つの神魂がいた。
ああ、と何でもないようにエルザが答える。
「その方は、今、ルイス様のそのネックレスに封印されています。まあ、封印されていると言っても、ルイス様がお呼びすれば出てくるとは思いますが」
えっ、と4人でネックレスを見る。
ルイスちゃんが、皆が見やすいように持ち上げたネックレスは、雫型の、青くて綺麗な宝石が付けられていた。
この中に、本当に……? とまじまじと見ていると、さらに衝撃的なことを言い始めた。
「その方は、唯一私達の中で自分の仕える主……つまりはルイア様の生まれ変わりに、ずっと付いていけているのです。それは、その方が精霊だから、もしくは願いの力でなのかは分かりませんが……」
なんと。つまり、何百年という時の中で、最も主と一緒にいられたのか。なんて感動的な……。
そう思っていると、ルイスちゃんは不思議そうにエルザに問いかけた。
「……同じ五つの神魂なのに、名前を知らないのですか?」
「はい。というのも、その方はあまりにも力が強大なので、名前を知っているだけで、私達の命まで吸い取ってしまうのです。……ですが、ルイア様は神司力が似た系統だからなのか、唯一その方と対面でき、直接お話出来ました。だから、ルイア様に仕えていたのだと思います」
私はその話を聞きながら、再度ネックレスに視線を向けた。
きらきらと輝く宝石。その光は、命の輝きなのだろうか。
その光を見ていると、何故だか、ふと不安になってしまう。
……五つの神魂は、私達のことだけでなく、お互いのことまでよく知っているのに。
私達は、何も知らない。
何度も生まれ変わって、使命を果たそうとしてくれていたのに……。
自然と布団を握る手に力が入った。
─────今、私達に出来ることは、一刻も早く記憶を取り戻すこと。
そして、私とジル殿下に関しては、神司力を回収すること。
でも……その為には、一体どうすれば良いのだろう。
そんなことを考えていたからか、私は、ジル殿下が私を見ていることに全く気がつかなかった。
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