第30話 決意を胸に
私達が四大神ということを知ってから、数日後。
あの後私は無事退院し、今では普通に学校も通えている。
ちなみに、あの時は暴走した理由は分からずじまいだったが、後になって色々判明した。
恐らく、命の危機に瀕して、私の中の魔力が何とか生きようとした結果、変に魔力が循環しすぎて暴走してしまったらしい。
謎に背中の傷は治っていたから、まあ良いのだけど。
そんな感じで色々と忙しかったが、もう夏休みも間近。
今年は災厄の危険性があるから、とりあえずまた特訓かなあ……と考えていた最中。
それは突然にやってきた。
◆◇◆◇
「……えと、つまりそれは、私達4人で特訓するってことでしょうか……?」
「そういうことだ」
私は他の3人を見た。黒白青。……見覚えのある、他の四大神の生まれ変わりだ。
急にジル殿下に呼ばれたから何だと思ったら……私達4人で、この夏期休暇の間、訓練(を中心として、交流を深める)をしようと提案されるなんて。
「俺達が本当に四大神の生まれ変わりならば、少しでも一緒にいた方が記憶を取り戻しやすいのではないかと思ったんだ」
「は、はあ……」
「まあそれに、元からマリー嬢とルイス嬢と交流を深めたいって思ってたしなあ。せっかくだし、良いかなって」
いや、私は良いんですけど、ルイスちゃんはどうなのだろうか。
いくら肝が座っていて、大人びたルイスちゃんでも、流石に不安なのでは……と思ってちらっと見た。
ルイスちゃんは、割と早くに私の視線に気付いてくれたけれど、
(何か問題でも?)
と思っていそうな目をしていて、私はそっと目を逸らした。……本当に肝が座りすぎてない?
「あと、これはあの時、俺達がマリー嬢の病室から出た時の話なんだが」
相変わらず無表情のまま、ジル殿下は話続けた。
「五つの神魂は、あの時マリー嬢を襲った者と、レイスやルイス嬢、俺を襲った者は、恐らく同一人物で、魔王の生まれ変わりかもしれないと予想しているらしい」
「え? ……あれが?」
「マリー嬢、あれがとか言ってやるな。可哀想だろ」
フリード殿下が憐れみの目をしている。しまった、つい本音が……。
「……まあ、あくまで予想の話だが。最近魔物の出現が多くなっていることに加え、
……魔王。
彼もまた復活するのか。そしたら、私達は彼と戦うことになるのだろうか。
でも何故だろう。
きっと、憎むべき相手なのに……あの時暴走する直前の意識の中でも、確かに私は恨みを彼に覚えたはずなのに。
……私は今、彼と戦いたくないと思ってしまっている。
でも、そんなことは言えない。……少なくとも、五つの神魂の前では、絶対に。
そう思いながら、私は前から気になっていた質問を3人に問いかけた。
「分かりました、ありがとうございます。……それとは全く違う話なんですけど、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
切れ長の涼やかな目で私を見つめる。
その目に何処か懐かしさを覚えながら、私は言った。
「皆さんは、本当に、エルザ達が言っていたことを信じているのですか?」
─────沈黙。少しの緊張感と、「まさかそれを聞くのか」という動揺が読み取れる。
でも、今後本当に4人で過ごしていくのなら、この質問は必要なことだ。
「だってそうですよね? 祝福姫として転生を繰り返して、1、2個前の前世を思い出すことができる私は、まだ『生まれ変わり』を理解できますし、受け入れられます。でも皆さんはそうではない。1つ前の前世ですら思い出せない。それなのに、どうして信じることが出来るんですか?」
私は3人をじっと見つめた。
─────正直、これはずっと気になっていた。そして、皆がどう答えてくれるのかも。
少しの沈黙が流れた後、ジル殿下が静かに口を開いた。
「俺は、正直まだ受け入れられない。だが、信じることは出来るし、納得も出来る」
「なんでですか?」
「あの場で嘘をつく理由が無いからだ」
ジル殿下は冷静に言った。でも、私が彼の目をじっと見つめていると、根負けしたようにため息をついた。
「そんなに疑い深くなくても良いだろう。……俺はあの4人のことは信頼しているし、それに何より、貴女達と話していると、不思議と懐かしさを感じるんだ。この懐かしさが前世に関係していると考えると、まあ、納得は出来る」
「……あ、それ俺も思った。なんかさ、懐かしいんだよな。ジルは家族だからともかくとして、マリー嬢とかルイス嬢とか……それだけじゃない、エルザ嬢やルーナ嬢も。会話しなくても、見かけた瞬間に、ふと何か……何だろう。何かを忘れてしまっているような気がするんだよな」
フリード殿下も、頷きながらジル殿下の言葉に賛同した。
ルイスちゃんは? と目線を向けると、彼女はしばらく考え、やがて私を見据えた。
「……懐かしい、というのはまだよく分かりませんが……少なくとも、今この瞬間は、何度も見たことがあるような気がします。フラッシュバックしてる、というか」
……どうやら天才は、こういった魂関係のことでも天才らしい。私、フラッシュバックなんて一度もないんだけど。
「これで満足か、マリー嬢」
「……ええ。ありがとうございます、殿下」
私が礼をすると、少し安心したように殿下は息を吐いた。
「では、マリー嬢。俺達と一緒に、しばらくの間、訓練をしてみないか?」
「はい、勿論です」
そう言うと、フリード殿下は安心して力が抜けてしまったのだろうか。大きくため息をついて、しゃがみこんでしまった。
その様子に私はぎょっとしたが、ジル殿下とルイスちゃんは何も気にしていなかった。
「いやあ良かった~。断られたら絶望だったよ」
「その時は嫌でも引っ張ってくるがな」
「……え」
「冗談だ」
殿下は無表情だった。それが余計に恐怖を促進させる。冗談に聞こえないです、殿下。
私は戸惑っていたけれど、フリード殿下もルイスちゃんも、何事もなかったかのようにしている。え、まさか二人はジル殿下のこんな冗談に慣れているの……?
「油断も出来ないし、そんなにゆっくりも出来ないが、俺達がお互いを知り、親睦を深めるぐらいの猶予はある。この4人で協力し合おう。……これで最後の転生にする為に」
ジル殿下がそう言うと、躊躇無くフリード殿下とルイスちゃんは頷いた。
私も勿論、頷いた。
……これから、何が起こるか、まだ分からない。
でも、必ずやり遂げてみせる。
皆の為に、そして─────他でもない、
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