第13話 運命の歯車は動き出した。

「あっ、ルイス様。ごきげんよう」


「ごきげんよう、マリー様」


 目の前の青髪美少女は、恭しく淑女の挨拶をした。しょ、所作まで綺麗……。


「ルイス様は、どうして図書室に?」


「授業の調べ物です。今度、生徒同士で授業をすることになったので、その準備のための下調べを」


「もしかして、ラハタキ先生の授業?」


「ええ。ご存知だったのですね」


「私も昔やったから」


 私がそう言うと、「マリー様も……」とポツリと呟いた。ルイス様、かわいい。


 あの日以来、ちょくちょく図書館やあのアフタヌーンティーの施設でルイス様と会っている。と言っても約束して会っているわけではなく、偶々なんだけど。


 いつの頃からか、「タメ口で構いません」と言われ、それ以降は以前より砕けた話し方をしている。自覚がある。ちなみにルイス様にも「タメ口で大丈夫ですよ」と言ったら頑なに拒否された。敬語じゃないと蕁麻疹が出るらしい。そんなに?


 とにかく、ひょんなことから私は年下の友人が出来たのであった。まあ、ルイス様が私を友人と思っているかどうかは定かではないけど……。


「マリー様は、どうしてこちらに?」


「え、私?」


 私が質問されることを予想していなかった。馬鹿正直に真実を話すのもなんだし、「私も調べ物」とだけ言った。


 いや、実際調べ物なんだけど。調べ物なんだけど。


 ───その調べ物の内容が「神々の詠唱」についてだから、ちょっと話し辛い、というだけだ。


 だって、「神々の詠唱」を使えた彼女に「私も使えたのー!」というのは、ちょっと、なんというか、気まずい。


 私だって魔法の特訓をしていないわけではないが、流石に「神々の詠唱」を使うための特訓をしていたわけではない。だと言うのに、ちゃんと練習した彼女にこれを言うのは、なあ。


 ルーナとエルザにさえ、この事を話したらひどく驚いた顔をしていたのだから。ルイス様だって驚くだろうし、なんというか、努力を踏み躙られたような思いをさせてしまったらどうしよう、と少し思ってしまうのだ。余計なお世話だろうか。


 で、でも……ちょっと言いたい。いや、正直に言おう、自慢したい。まぐれかもしれないけれど、「神々の詠唱」を使えたんだもの。自慢したい。ううう、でも…………。


「───やっぱり、今世こそ、だよ。エルザちゃん」


 本棚の奥から、そんな言葉が聞こえた。ルイス様と一緒に、思わず息を潜める。


「今世こそ、四大神様たちの記憶が戻って……私たちの世界を、取り戻せる」


「……そのためには、まずはあの四人に私たちの話を信じてもらわないとだけどね」


 ルーナとエルザの声がした。その話の内容に、思わず息が詰まる。


「あはは。うん、そうだね。難しそうだなあ。マリーちゃんは転生繰り返してるからともかく、他の三人がなあ」


「……ルイス様は『神々の詠唱』を使えていたから、まだ納得できる材料があるけれど。問題は、ジル殿下とフリードリヒ殿下ね」


「そうだよねえ。うーん、どっかに『五つの神魂』の資料ないかなあ。あの時から私たちの名前は変わってないし、それを証拠にできたら良いんだけど」


 なんでもないように、会話が繰り広げられる。


 だけど、私の頭の中はなんでもなくなかった。


 (……なんの話をしてるの、ルーナ、エルザ……?)


 四大神? 五つの神魂? 私たちの世界?


 ───生まれ変わり?


 待って、待ってよ。


 生まれ変わっていたのは、ずっと転生を繰り返し続けていたのは。


 ───私だけ、ではないの?


 どくん、どくんと心臓が嫌な音を立てる。


 じゃあ、私のこの転生も、能力も、ふいに感じる、「何かを忘れている」という焦燥感も。


 ジル殿下やフリードリヒ殿下、ルイス様にどこか懐かしさを感じるのも、ルーナやエルザが何かを隠しているように見えるのも、時々、違う誰かに見えることも。


 全部、全部、全部全部全部───







 ───私の知らない前世が、四大神としての前世が、関係しているとでも言うの?

 






「マリー様、先ほどのお話は……」


「……ルイス様。今はまだ、あの二人のために何も知らないふりをしてあげて」


「……」


「私もどうすれば良いか、分からないの。ならせめて、あの子たちの邪魔にならないよう、何も知らないふりをした方が良い」


 なんとか笑顔を作って微笑む。ルイス様は相変わらず無表情だったけれど、どこか心配そうな雰囲気を滲み出していた。

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