第11話 目が覚めたら知らない天井が視界に入った。いやほんとに。
この天井はどこの物かと思ったら、どうやら王家直轄の医療施設の天井だったらしい。目が覚めた私は、お母様たちと一緒に私の事情を知っている、かかりつけのお医者様から説明を受けていた。
「この様子なら大丈夫でしょうな。急に倒れられたのも、大きな魔法を使った反動でしょう。……さて、皆様から何かご質問はありますかな?」
お医者様は大方説明をし終わった後、穏やかに微笑んだ。
「あの、お医者様」
「なんでしょうか、マリー嬢」
「突然で申し訳ないのですが、身体検査をしていただけませんか?」
私がそういうと、お医者様は少し驚いたような顔をした。
「構いませんが……つい数日前行ったばかりでは?」
「そ、そうなのですが……今日戦った時、ちょっと何か、違うなあと思ったので」
嘘ではない。全部は語っていないが。
理由はもちろん、新たな天恵のようなものが現れたことと、「神々の詠唱」が使えたことだ。
とはいえ、新たな天恵に関してはともかく、「神々の詠唱」に関しては何というか、切羽詰まって見た幻覚の可能性もあるし、罷り間違って「神々の詠唱が使えた!」なんて言ったら頭の精密検査を受けるかもしれない。へ、下手なことは言えない。
「……なるほど、分かりました。手配しますが、少々お待ちいただけますか? 今少し、城内で色々と起きていまして」
「……? 何かあったのですか?」
お母様もお父様もその色々を知らなかったのか、不思議そうな顔をしている。お医者様は、少し迷ったような顔をしてから、話し始めた。
「実は、つい先ほどまで城内に魔物が侵入していたのです」
「…………え」
私はじわりと目を見開いた。そんなこと、ここ数十年間無かったはずだ。
「ああ、ご心配なく……怪我人は出ましたが、そこまで重症ではありませんし、死者も出ていません。今は討伐が完了して、城内復帰や清掃をしております」
その言葉を聞いて、少しほっとした。
だけど、また不安になってしまうのだ。
ここ最近、ずっと魔物の襲撃が続いている。そして何より、なんだか今世は、それまでの人生と何かが違うような気がする。
私はそれが、不安で仕方がない。
「お待たせいたしました」
そう言うとお医者様は、診断結果の紙を私たちに見せてきた。覗き込むようにそれを見る。
「まず、新しい天恵が一つ増えております。そうですね……この天恵の内容を見るに、名付けるとしたら、『創造の力』でしょうか」
『創造の力』。まあ、そんな名前になるだろうなとは思っていた。
それぞれの天恵に名前があるわけではない。大体は、天恵を調べ出す装置からその天恵の効果を知り、その効果を元に名付ける感じだ。今回なら、「モノを生成する」みたいな感じだったんだろう、多分。
新しい天恵が増えることなんて早々ないから、お母様もお父様も驚いたように目を見開いた。それはそうだ。私だってびっくり。
それに、おかしいと思う。前世でもこんなことは無かったのだ。やっぱり、今世は何かが違う。
むむむと考えていると、お医者様は「それと、」と話し始めた。
「魔力値も上がっております」
それを聞いても、特に驚きはしなかった。まあ、魔力値は成長するにつれて自然に増えていくものだし、特訓すれば自らの意思で増やすこともできる。
魔力値は魔法を使うための燃料みたいなものなので、増える分には嬉しい。だからお母様たちも「ああ良かったわね」ぐらいで、さして驚いていなかった、のだけど。
「いえ、それが、異常なほどに上がっておりまして」
お医者様は、すっ、と検査結果を差し出す。
────目ん玉が飛び出るかと思った。10倍も上がっている。
え、なに。もしや病気? というぐらいには上がっているので三人してお医者様の顔と検査結果を何度も見比べてしまった。なんというか、戸惑いまくってる私たちは多分滑稽だろう。
「病気の可能性もあると見て、そちらの検査もしたのですが……異常はありませんでした。とても健康体です」
は、はあ。まあそれは良かったけれど。良かったんだけれども。それにしたって上がりすぎじゃないですかね、この量は。
「ですが、しばらくは様子を見ましょう。天恵も魔力値も増えたとなると、反動が来るかもしれませんから。定期的な検査を行いましょう」
私の戸惑いというか、動揺を目にしたお医者様は、安心させるような穏やかな微笑みを見せた。
「マリー、歩けるかい? ふらつかないかい?」
「大丈夫よ、お父様。ありがとう」
と、言いながらも、私はお父様の腕を借りながら歩いていた。心配そうな顔をしたお父様に向かって、私は微笑んだ。
実際、体調自体は悪くないのだけど。流石にちょっとふらつくというか、足元がおぼつかないというか。とにかく、一人ですたすた元気に歩くまでの余裕はなかった。
「マリー嬢! もう体調は良くなられたのですね、良かった!」
明るい声が後ろから聞こえる。振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべた金髪の彼がいた。その後ろには、爽やかな笑顔の紫髪の彼も。
「ウィスティリア殿下、ウィリアム殿下! 先ほどはありがとうございました……」
「いえいえ。皆様ご無事で何よりでございます」
ウィリアム殿下───紫髪の彼が、爽やかな笑みで受け答える。
ん、というか、先ほどって……。
「マリー。実はね、貴女を王城まで運んでくれたり、家の復旧を手伝ってくださったのは、黒龍団の方と、殿下たちなのよ」
お母様が、後ろからそっと耳打ちする。私は卒倒しそうになった。
「ででででで殿下、誠に心より感謝申し上げます……!!!」
「あっはは、マリー嬢ってば大袈裟だなあ」
ウィスティリア殿下が人の良い、可愛らしい笑顔で笑う。
そりゃあ王族の方にお世話になったとなればこんな大袈裟にもなる。再三言っているけれど、私、前世は平民だもの。ぶっちゃけ奴隷の時より前の記憶なんてほとんど無いけれど、流石に一個前の
「まあでも、まだあんまり無理はしないでくださいね、マリー嬢?」
ちら、と腰を屈めて、こちらを覗き込むようにウィスティリア殿下が微笑む。私はうっ、となった。
うっ、となったのは、殿下が容姿端麗で、その顔が近付いて胸が苦しい、みたいなのではなく。
実を言うと、ちょっとだけ、ウィスティリア殿下のことは苦手なのだ(ウィリアム殿下は平気なんだけど)。
ウィスティリア殿下とウィリアム殿下は双子で、ミリィの兄でもある。ミリィとよく関わっていた私は、もちろんこのお二方とも話す機会があったのだけど。
なんでか分からないけど、ウィスティリア殿下のことが苦手。なんだろう、あまりにも人が良すぎる笑顔が、作り物のように見えるのだろうか。纏う上品な雰囲気も、どこか作り物めいたように感じる。
でも、成績優秀で、魔法の腕もすごくて、もちろん人柄も良い。それに、人の良い笑顔と上品な雰囲気なら、ウィリアム殿下だって同じだ。
うーん、波長が合わないのかな。なんて思いながら、私は殿下に笑顔で受け応えた。
「はい。心に命じております。ご心配ありがとうございます、殿下」
貴方が苦手です、なんて雰囲気、おくびにも出さないように、なるべく優雅に微笑んだ。
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