第5話 青髪の美少女、純白の救世主。

「……貴女は……」


 群青の瞳の彼女は、人形よりも人形らしく、少し恐怖を覚えるぐらい綺麗な顔立ちをしていた。


 瞳と同じ色をした群青の髪は、さらさらと光を反射して煌めいて、肌は白いけど血色は良く、それでいて透明感がある。


 高くすっとした鼻に、桃色の可愛らしい形の良い唇。髪と同じ色をした大きな目は、長く綺麗な睫毛に縁取られていた。


「マリー!! 横から魔物よ!!!」


 一瞬見惚れてしまったけど、エルザの叫びに意識を引き戻され、目で敵を捉える。


 彼女たちの視界を塞ぐ余裕は、申し訳ないけど無い。私は飛びかかってきた魔物を斬り伏せた。


 返り血がダイレクトにかかった。ふ、不快……だけど、致し方ない。


「私はこの子たちを連れてって、先生たちを呼んでくる! だからマリーちゃんとエルザちゃんは魔物を!」


「分かった、気をつけてルーナ!」


 返事をしながら、もう一匹魔物を斬る。第一級の魔物で良かった、まだ相手できる。


 だけど、それにしたって数が多い。なんでか分からないけど、次から次へと出てくる。湧水のように出てくるのはお金だけで良いのよ!!!


「マリー、私が魔物の動きを止める。だから、代わりに斬って」

 

 私が頷くのを見たと同時に、エルザは杖に魔法を込め始めた。大きく魔術陣が展開され、紫苑の光が辺りを包む。


「『アマルテミルの名の下にアマルテミル・ヴィー』、汝ら、我が命に従え───静止せよシーラ


 その呪文が終わると同時に、魔物たちは動きを止めた。実際にはもがいているけれど、前に進むことも、逃げることもできない。


 私はその隙に、剣に破壊の力を込める。


「『破壊の力よ、私に見せてディスティクション・フォーシ』 ────薔薇の花弁と、命の散る様を」


 その言葉と同時に、魔物を一気に叩き斬る。肉が裂ける音と血が噴く音が鼓膜に響く。ぞくり、とどこかで快感を覚えた。


「────危ないっ!!!」


 その声と同時に、後ろに熱気を感じた。まるで、真後ろで火が燃えがっているかのような熱気。


 そんなまさか、と後ろを振り返ると、ちょうど魔物が消し炭になったところだった。


 え、と思っていると、後ろでまた肉が切れた音がする。振り返ると、茜色の軍服が視界に飛び込んできた。


 見上げると同時に、その人が振り返る。雪のような純白の髪が、茜色の軍服によく映えている。ふと顔を見ると、真っ赤な目と視線がかち合った。


 私のような深紅の目じゃなくて、鮮血のような、赤。


「マリー嬢、エルザ嬢、大丈夫か!?」


 (大丈夫ですけど、なんで貴方がここに)


 そう言おうとして、止めた。今は多分、それどころじゃない。


 それに、流石に彼に……この国の第一王子であるフリードリヒ殿下に、そんな口を聞ける勇気は無かった。







「マリー嬢、エルザ嬢、改めて感謝申し上げる。そしてまた危険な目に合わせてしまったこと、心から謝罪させてほしい。本当に、申し訳ない」


「いえ、大丈夫です。どうやら、中庭の魔物探知機が壊れていたそうなので、気づかなくて当然……早めに対処できたのは、運が良かったからです」


「……というかむしろ、探知機による知らせが無いはずなのに、駆けつけるのが早いのでは……」


 私がそう呟くと、それに呼応するようにフリードリヒ殿下がジル殿下に話しかけた。


「そうそう、なんかすごい早かったよな。お前もここ学校に来てたのか?」


「いや。ただ、お前の戦闘用の剣が突然転移されたからな。講習で学校にいることは知っていたから、もしかしたらと思って来た」


 ジル殿下はそう返すと、私の服を見た。……酷い状態だから、あまり見ないでほしい。


 すると、フリードリヒ殿下がジル殿下の目を塞いだ。ちょっとジル殿下が後ろによろめく。


「おい、そんな睨むことないだろ。お前目つき悪いんだから、流石のマリー嬢でも怖がるぞ」


「……睨んでない。ただ、酷い返り血だから、謝礼の一つとして、新しい制服の費用を出さなければと思っただけだ」


「……え? いやいやいや、流石にそれは畏れ多いというか……!!」


 そんなこと、かなり活躍したはずの前世ですら無かったのに。いや、前の時の王族はこんな心優しい方たちじゃなかったから、かもしれないけど……。


「……人一人の制服代を出したところで、財政に影響は無い。受け取ってくれ」


「いや、それはそうでしょうけど、そうではなく」


 みたいな押し問答みたいなことを続けていたけれど、結局はジル殿下の熱意に負けて受け取ることになった。とても有難いけど、とても気まずい。


 (……って、そういえばあの子たち、大丈夫だったのかな)


 先ほど、闇の魔獣の前にいたあの子たちのことが、ふと頭に浮かんだ。特に、あの青髪の女の子。


 ルーナが連れていってくれたから、皆大丈夫だろうけど。


 (……あの青髪の子、なんていう名前なんだろう)


 その美貌と魔法の技術に、私の思考はその子のことで埋め尽くされてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る