第2話 返り血浴びまくってますが、これでも一応公爵令嬢です。

 愉快! 爽快!! 討伐万歳!!!


 (どうしよう、ここ最近で一番快感かも……っ!!)


 湧水のように出てくる魔物を、ザックザックと斬り伏せる。一刀両断したり、ギロチンよろしくな感じで首と胴体を分けたり、そういうの関係なく普通に切ったり……。


 おかげさまで返り血浴びまくってるけど、まあ構わない。……服はうちの使用人のもう使わないお古だったから、ちょっと、いやかなり本人に申し訳なさはあるけど。


 なんて考えながら、ふと辺りを見回した。気づいたら、魔物の数は数えられるぐらいに減っていて、石畳の地面に魔物たちが伏せていた。流石に自分の腕力だけで斬り続けて疲れたから、能力を使って討伐を完了させよう。


 『破壊の力私の天恵』を纏った剣を構え、走る。


「『破壊の力よ、私に見せてディスティクション・フォーシ』 ────薔薇の花弁と、命の散る様を」


 そう唱えて、魔物たちに剣を振るっていく。


 一匹目、ちょうど目の前にいたから、思いと勢いのままに首を斬り落とす。鮮紅と暗赤の血が私の胸元から腹にかけて服を汚し、少し、いやかなり顔にも模様を描いた。


 二匹目、狼型の魔物だったから、ちょっと腰を低くしてから回し斬り。ちょうど私に飛びかかってくる瞬間に切ったものだから、心臓の辺りから胴体が二つに分かれた。下半身は血を吹き出しながらゆらゆらと地に伏せ、上半身は前足を水掻きのようにばたつかせた後、ぐるりと眼球が上を向いたと同時に地面に落ちた。


 三匹目、今度は鳥型だったから、二匹目の回し斬りの勢いで飛び上がって胴体を斬る。先の二匹よりも軽く切れた。腹の部分を切ったのか、恐らく腸の辺りのどこかしらの、赤や白の、紐やら管やらが、でろんと切断面から垂れ下がった。


 四匹目、五匹目は三匹目の延長線上にいたからそのままの勢いで。臓物の残り滓が付いた剣で一気に斬りかかる。同族の死体の一部が付いた剣で斬られるのはどんな気持ちなんだろうか。


 六匹目……七匹目……八匹目……魔物を斬る感覚と、その達成感と、高揚感に、どんどん気持ちが高まっていく。


 (……まだ、まだ斬れる。まだ戦える!! まだ倒せる!!!)


 気持ちのままに剣を振るう。一気に三匹を斬り殺した。肉体が切れる音と、感覚。それから、血が吹き出す音と色、臭いと、肌に付く返り血を感じた。


「……はっ、あは……っ。……はあ」


 しん、と辺りは静まり返っていた。街の人々は既に避難し終えていて、残ったのは息を整える私と、地面を永眠の寝床とした魔物たちだけ。


 ───討伐し終えた。討伐し終えてしまった。流石に久しぶりにこんなに動いたので、なんだか疲れてしまった。はあ、と息を大きくついた。


「うーん足りない……前世はもっと派手にやれたのに……最近は規制が厳しいのよね、はあ全く」


「何がはあ全く、なのよ」


 ふとその声の方向に目を向ける。鮮やかで清々しい青の髪に、薄紫の瞳の、少し切長の目が、呆れたような様相を見せていた。


「あ、エルザ……ってやめてよ、その人ならざる者を見るような目。彼ら魔物が可哀想じゃない……」


「魔物じゃなくてあなたを見てるの」


 そう言うと、エルザはため息をつきながら杖先で地面をコツコツと叩いた。石畳の間に入った砂が少し窪む。


「あのね、毎回思うけど派手にやりすぎ。ちょっとは魔族の血を引いてる私の身にもなってくれない?」


「『魔物』と『魔族』はまた別でしょ」


 教科書とかじゃあほぼ一緒にされちゃってるけど。って言おうとして、止めた。友だちを失う気がする。魔族と魔物は、人間と動物ぐらい違うから。


 彼女はエルザ・アマルテミル。ルーナやミリィと同じ、私の幼馴染の一人。だいたい好き勝手してる私たち三人を、上手く纏めてくれる存在。クールで冷めてるところはあるけど、これでいて可愛いもの好きというギャップがある。


 彼女の家、アマルテミル家は魔族の血を受け継ぐ特別な家系。それもあって、さっきみたいな発言をしたんだろう。人間と動物ぐらい、違うとはいえ。


 まあ……確かに、市街地だったらもう少し抑えるべきだったかしら。ほら、あいつとか斬り方をミスって腸が若干はみ出ててる……。いつもなら、もうちょっと綺麗に斬れるんだけど。


「でもまあ大丈夫よ。だってルーナがに幻惑のやつ魔法かけてくれたんだもの。周りの人たちからすれば、私は光魔法を使って穏やかに魔物を消していったに違いないわ。いくらなんでも、殺戮の様子をガッツリ見られてたなんてそんな」


「え、今回かけてないよ?」


「待って嘘でしょ」


 背後からひょこっ、と現れたと思ったら聞こえてきたまさかの一言。え、それ幻惑がないと社会的に死ぬんですが、私。


 いや確かにお願いしてなかった私が悪いけど! 当たり前だと思ってわざわざ頭下げなかった私が悪いんだけど!! でも嘘でしょ!?


「殿下、魔物はどこに……」


「…………どうやら、マリー嬢が綺麗に討伐してくれたようだ」


 返り血なんて一滴も浴びずにな。


 そんな少し呆れたような低い声が背後から聞こえる。慌てて振り向くと、やっぱりそこには───


「あ、ジル兄様」


「……この兵士はお忍びの事情を知っているからいいが、お前は本来ここにいない設定のはずだろ」


「あっ」


 慌ててミリィは口を手で塞いだ。もう遅い気が……っていや、そんなことより。私は目の前の彼に改めて視線を向けた。


 ジル・アリス・アンダラス殿下。この国の第二王子で、黒龍団───王家直轄の兵団の団長でもある方。


 艶やかな漆黒の髪に、雪のような白い肌。氷を彷彿とさせる薄青色の瞳を持つ、涼やかな切長の目。すっと通った鼻筋に、形の良い唇。


 その顔立ちはいつ見ても美しくて、もう何回も見ているはずなのに、毎回少しの恐怖───と、妙な懐かしさを覚えてしまう。恐怖は美しさへの畏怖的なものなんだろうけど、懐かしさに関しては何故なんだ。


 って、問題はそこじゃない。今の問題は、私があまりにド派手にやり過ぎて、幻惑にかかってない……否、ルーナがわざとジル殿下が若干引いていること。そして、魔物の後処理が非常に面倒臭いこと! こんな派手にやるんじゃなかった!!


「お前はティアを呼んでくれ。その後はそのまま住民誘導の班に移れ」


「はっ!」


 そう言って兵士さんは私たちに背を向けて走り出した。その姿を確認した後、殿下は私たちに向き直る。……若干疲れた顔をしながら。


「マリー嬢、魔物から街を、住民を守ってくれて感謝する。……本来は赤龍団の仕事なんだが。最近弛んでるみた……いや、なんでもない。とにかく、この謝礼は必ずする。本当にありがとう」


「いえ。私にできることはなるべくしたいので。当然のことです」


 ……一瞬、赤龍団の話になったとき、やけに殿下の顔が怖くなったが……すぐまたいつもの無表情に戻った。美人って怒ると怖い。がくぶる。


「そうだ、マリー嬢。この後、そのまま城へ来てくれないか。事情聴取をしたいのもそうだが、今年に入ってまだ身体検査をしていないだろう?」


「……あ、そういえば」


 ジル殿下にそう言われて、思い出した。


 私は前世の記憶を引き継ぎ、能力なんかもそのまま引き継がれてる。だから、ちっちゃい時から魔力量が病的に多かったし、珍しい「天恵(特別な能力的なそれ)」の保持者でもあったし、いやに剣の扱いが上手いし……といった感じだった。


 それを心配したお母様たちが病院に行ったら、気づいたら王城のすぐ隣にある、王国直轄の機関で検査を受ける羽目になっていたのよね。お城が隣だから、王家であるミリィとたまに会うわけで。学校も同じだったし、気づいたら一緒にお忍びに行くくらい仲良くなっていたし……。


 って、ミリィとの話はともかく。検査自体は今でも受けてるから、たまに王城に行かなければならないのだ。まあ、検査結果が降りるまでの間、王族流のおもてなしをされるからむしろ行きた……ごほん。やましいわ、私。

 

「ルーナ嬢とエルザ嬢も、良かったら来てくれ。貴女たちは検査は無いが、ミリィの友人だし、何より同じ『九つの名家』の仲間なんだ」


 ジル殿下が二人に目を向けると、二人はぱちりと目を瞬かせたあと、顔を見合わせて嬉しそうな顔をした。うーん、可愛い。


「お心遣い感情致します、殿下」


「お言葉に甘えて、少しお邪魔させていただきます!」


「ああ」


 ジル殿下も無表情だったけれど、どことなく嬉しそうな雰囲気を出していた。殿下、顔はちょっと怖いけど優しい人なのよね……。


 その後、ジル殿下の「天恵」で魔物の死体処理がなされ(私がやったのに人様にやらせてごめんなさい)、私たちは王城へと向かった。

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