第34話 狂気姫の追憶3
「……っあ……」
「……」
私とフォルテは、言葉を無くしてしまった。
燃え盛る村。血塗れで倒れている人々。そこら中に落ちた武器。
もう何もかもが終わっていて、悲鳴すら聞こえない。
ただ、静寂と、火が建物を包み込む音しか聞こえなかった。
「─────おい、まだガキがいたぞ!!」
突然聞こえる怒鳴り声に、思わずびくっとなる。
恐る恐る後ろを振り向くと、何者かに宙ぶらりんにされた。
「ぐ……っ!?」
「ん? こいつ、女じゃねえか。しかも、結構上玉だぜ」
「っ、そいつを離せ……!!」
フォルテが細い身をしならせて、思い切り男の鳩尾に拳を喰らわせた。
ちょっと効いたのか、男は一瞬顔をしかめさせたが、すぐにフォルテを蹴飛ばした。
「がっ……!」
「はっ、大したことねえ奴だな」
その男の声を皮切りに、何処からともなく他の奴らも現れ始めた。
風体を見るに、山賊のようで、全員野蛮な格好をしていた。
「おい、こいつなかなか良いと思わねえか」
「おっ、いっすねえ~。皆で回しましょ」
「そこまで持つかあ?」
「持っても持たなくても、やれれば問題無いっすよ」
そう言って、男達は私の服に手をかけた。
どうにかして踠いて、身を捩っても、あっさり地面に押し付けられる。
この村を破壊したこいつらに対して、怒りでどうにかなりそうだ。それなのに、これからされることを想像すると、恐怖で体が全く動かない。────本当は殴り殺したいぐらいなのに。
それでも必死に抵抗していると、少し遠くから声が聞こえた。
「兄貴! こいつ殺しちゃったんですけど、どうします?」
「あぁ? そこら辺にほっておけ! どうせあるもの全部頂いたらずらかるんだから!」
「了解っす! あ、そいつ新しい女ですか? 良いですねえ、こいつあんまり良くなかったんで」
その会話の直後、少し離れた所でどさりと音がした。誰かが投げ捨てられたらしく、霞む視界の中、無意識に目を凝らしてしまった。
─────そこにいたのは、全裸で体のあちこちが傷つけられていた、姉妹も同然のハンナだった。
もうとっくのとうに目から光は消えていて、顔色は生気を失っている。私達がここに来る直前、何をされたかは容易に想像がつく。─────そして、彼女がどれだけ悲惨な死を遂げたかも。
いや、彼女だけではない。おばさんも、あの魔法の先生も、フォルテの親兄弟だって。
全員、こいつらに殺されたのだ。
許せない。
許してはいけない。
こいつらを、生かしてはおけない。
殺してしまわねば。
……いや違う。
殺す。殺したい。
絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に……っ!
私が、この手で……
殺してやる
「
─────その途端、男達は胸を握りしめ、苦しみ始めた。
ばんっ、と何処からともなく破裂音がして、男達は倒れる。
全員白目を剥いて、苦悶の表情を浮かべながら死んでいた。
その様子を見た残りの男達は、逃げ惑う者もいれば、私に襲いかかってくる者もいた。
「
男達に手を翳すと、光線がそいつらの心臓を貫いた。
さらに情け容赦なく、腹、脳、目、足、腕……体のありとあらゆる箇所を貫通し、体を穴だらけにしていく。
その様子を見た極少数の生き残りには、私に襲いかかる者はおらず、ひたすら逃げ惑っていった。
でも、逃がさない。逃がすはずがない。
私は、恨みを込めて囁く。
「行っておいで。『空に飛び交う赤き蝶』」
赤く光る蝶達が、男達を追いかける。
そのスピードは尋常じゃなく速くて、すぐに男達に追い付いた。
行け。そのまま、そいつらの体を蝕んでしまえ。
生きたまま体を蝕まれ、死ぬ直前まで苦しみ抜くがいい。
何処までも何処までも何処までも追いかけ続けろ。
この村の人々の苦しみを、お前達も身を持って味わえ……!!
「────おい、貴様」
「……なんだ」
声がある方に向かってそう答えると────そこには、あの日見た腹立たしい王子が立っていた。
「おい貴様、答えろ。これはどういうことだ」
「そこに転がっている山賊達がこの村を破壊した」
「……なに?」
王子は男どもに目を向ける。屍となった男どもを凝視して、私を見て、の繰り返しをした後、突然私の体をねじ伏せた。
「がぁっ……!? お前、何を……!?」
「山賊と言えど、殺人は殺人だ。城まで来て貰う」
「は……あ゛ぁ!?」
こいつ、何をほざいた?
山賊と言えど、殺人は殺人?
ふざけるな。こいつらが先に私達の全てを壊したのに。私は、それをやり返しただけだし、ある意味正当防衛だ。
それなのに、何故殺人犯扱いされなければならない……っ!?
「……
「マリリア、止めろ!!」
その声が響くと同時に、私は視界が晴れた。
見ると、フォルテがこの王子を突き飛ばしたらしい。
「……っ、貴様、平民の癖に何を……!!」
「こいつらを殺したのはこいつじゃない、俺だ」
「……は?」
私は思わず声が出た。何を言っているんだ、こいつは。
王子も同じことを思ったらしく、フォルテに対して怪訝な目をしていた。
「……貴様、何を」
「あんたが早とちりしただけだ。そもそも考えてもみろ。こんな細っちい女に、山賊を殺すだけの力があるか?」
フォルテがそう言うと、王子は納得したらしく、フォルテを見据えた。
「じゃあ、山賊どもを殺したのは」
「何度も言わせんな、俺だ。そいつはただの被害者だ」
王子は、その言葉を聞いて、立ち上がり、フォルテの前に立ちふさがった。
「貴様、名前は」
「フォルテ。フォルテ・キラー」
「そうか、フォルテ」
王子はそう言うと、思い切り彼の鳩尾に膝蹴りをかました。
「がはっ!?」
「貴様を現行犯逮捕する」
「っおい、くそ王子!! 馬鹿も休み休みにしろ!」
「貴様に口答えする権利はない、女」
そう言うと、王子は私にも容赦なく蹴りをかました。
「がっ……!」
「貴様らはどちらも王城に来て貰う。……ただし」
彼は氷よりも冷たい目で、フォルテを睨んだ。
「フォルテ・キラー。貴様は地下牢送りだ」
そこまで聞いて、私の意識は途切れた。
私が前世で君に約束したこと W @ivgz8o-kj
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