第33話 狂気姫の追憶2
私のキラー村での日常は、実に平和だ。
たまに生意気なガ……否、年下の友人と喧嘩したり、おばさんに怒られたりすることもあるけど、まあ、それも含めて楽しい。魔法の先生も厳しいけど、なんやかんやで優しいし。
私は、この村の人達が大好きだ。
◆◇◆◇
「マリリア! 悪いんだけど、また街におつかいに行ってくれない?」
「はあい。何を買ってくればいい?」
「洗剤と小麦粉とお肉! このメモに書いといたから、分からなくなったら見て。あ、あとこれ」
「? これは……?」
おつかい用のお財布とは別に、お金を握らされた。私が不思議に思っていると、おばさんはにっこり笑ってくれた。
「これはあんたのお小遣い。最近頑張ってるからね、これで好きなもん買っておいで」
「えっ……いいの!!」
「ああもちろん。あ、でも、ハンナには内緒ね」
茶目っ気のある笑いをした後に、おばさんは私の背中を優しく叩いた。
「じゃ、おつかいよろしくね」
「うん! ありがとおばさん!」
おばさんから貰ったお小遣いを、大事にポケットに入れて、いざ出発!!
……としようとした矢先、ふと後ろから声がかかった。
「おい、マリリア」
「ん? あ、フォルテ! どうしたの?」
むすっと不機嫌そうな顔をした彼が、腕を組みながらこっちを見ていた。不機嫌そうではあるけど、実際不機嫌ではないと思う。彼の表情は常にこんな感じだ。
彼────フォルテは、私の友人。でも友人っていうよりかは、弟に近い感じ。実際私より年下だし。それに、なんやかんやでこいつも可愛げがあるのだ。
「お前、どこ行くんだ」
「街! おばさんにおつかい頼まれたの!」
「ふうん」
興味無さそうに返事した彼だが、何故か私を追い越して村の出口へ向かっていった。
「フォルテもどっか行くの?」
「お前についてく」
「えっ」
私が驚いて思わず声を出すと、怪訝そうにこちらを見た。いやいや、どっちかって言うと、その顔するの私だと思うんだけど。
いやしかし驚いた。基本人付き合いが嫌いな彼が、いくら友人とはいえ、まさか私についてくるなんて。しかも私、普段ダル絡みしてるからうざがられてるかと思ったのに。
「なに……? なんかあった? 明日槍でも降る? まさか、魔物でも襲ってくるんじゃ……!」
「縁起でもないこと言うな」
フォルテは呆れたようにため息をつくと、
「着いていきたいから着いてくだけだ」
と言った。
いや、それが一番謎なんだけど……なんて思ったけれど、反応するのも疲れたので、とりあえず一緒に行くことにした。
◆◇◆◇
「よっし、おばさんからの任務達成! やったね!」
いえーい、と私がフォルテにハイタッチを求めると、彼は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
でもその割には、ちゃんとハイタッチを返してくれた。
「じゃあ、帰るか」
「待った! おばさんからの任務は終わったけど、私の目的はまだ達成されてない!」
「……なにかあるのか」
フォルテは、ちょっと面倒くさそうに私を見つめた。そんな面倒くさいなら、先に帰っても良いですけど~?
って言いたくなったけど、へそ曲げるので飲み込んだ。危ない危ない。
「実はね、さっきおばさんからお小遣い貰ったから、ちょっと買い物したいの! だから付き合って!」
「……」
私がそう言うと、彼はひょいっと私の荷物を持った。
「持ってやるから、好きに見ろ」
なーんてませた顔で言った。態度だけはいっちょ前ね、あんた……。
「でも、どうせなら一緒に見ましょ! あ、でも荷物は持っててくれると嬉しいわ!」
「……なんて傲慢な」
とかぶつくさ文句は言ってるけど、なんやかんやで私に付き合ってくれている。こいつ、本当は優しいのよね……。
◆◇◆◇
「ねえねえフォルテ、このネックレス綺麗じゃない? 青くて雫型で、きらきらしてる! ……うっ、値段が……」
「……諦めろ」
そう言われて、泣く泣くネックレスを元に位置に戻した。ばいばい私のネックレス……。
さて、では何を買おうか……と辺りを見回すと、ふとあるものが目に入った。
「ねえフォルテ、これ日記?」
「……じゃないのか」
シックな感じで、触り心地の良い日記だ。中を見てみると、少し茶色がかった、模様の付いた紙が、これまたおしゃれ。
値段を見てみると、貰ったお小遣いを使って少し余る程度。
「よし、買った!」
「……お前、日記書けるのか」
「か、書くわよ! それに、前から欲しいって思ってたの!」
というわけで、無事購入。良いものを買えた私、満足感でほっくほく。
いそいそと鞄に日記をいれた時、ふとあることを思い付いた。
再度きょろきょろと辺りを見渡して────それを見つけた私は、そっちに走っていった。
フォルテが何か言っていたけど、気にしない。だってどうせすぐ戻るし。
私はそれを余りのお金で買って、フォルテのところに戻ろうとした時、ちょうど彼が私の元に追い付いた。
「おい、急に走り出すな……むぐっ」
包装を取って、今さっき買ったお菓子をフォルテの口に入れる。
不満げそうな顔をしていたけれど、お菓子の甘さでちょっと眉間の皺が無くなった。可愛いとこあるじゃない……。
「……なんのつもりだ」
「今日買い物に付き合ってくれたお礼!」
私は、とびきりの笑顔を彼に見せてみた。
「ありがと、フォルテ!」
そう言うと彼は、少し驚いたように私を見て、それからすっと目を逸らした。
「あ、照れてる? 照れてる?」
「……うるさい。帰るぞ」
そう言って、さっさと歩いていってしまった。案外歩くのが速くて、私は慌てて彼を追いかける。
街を出た後、私達は会話に花を咲かせながらゆっくり歩いた。
魔法のこと、この前会ったあのむかつく王子のこと、最近あった面白いこと……。同年代の友達がいると、こういうことも話せて嬉しい。
こんな平和な日常がずっと続いていく。
─────そう、思っていた。
「それでねそれでね、その時ハンナが……」
「……おい、マリリア」
「ん? どうしたの?」
「……あそこ」
彼が指差す方向を見ると────少し離れた場所で、黒煙が上がっていた。
その煙が上がっている場所の方角には────そこまで考えて、私は不安に心を塗りつぶされた。
「フォルテ、あそこ、まさか……」
「……マリリア、行くぞ!」
そう言って、彼は走り出した。私も慌てて走り出す。
────しかし、私達が着いた時には、もう何もかもが終わっていた。
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