第22話 遺跡探検

「それでは、今から、遺跡探検に先立ちまして、アポロテミス家の方に説明をしていただきます。ララ様、よろしくお願い致します」


「はい!」


 アポロテミス家のご令嬢────ララ様は、明るく返事をした。


「皆さん、こんにちは! ララ・アポロテミスです! 本日は、皆さんと一緒に遺跡に行けること、とても嬉しいです!」


 そう言うと、太陽のようなきらきらとした笑顔を向けてくれた。



 宿泊体験3日目。今日は、皆が楽しみにしていた、遺跡探検をする日だ。


 遺跡の案内をしてくださるのは、ここ周辺の地域を管轄している、アポロテミス家の方々。


 今年は、他のアポロテミス家の方の都合がつかなくなって、急遽、本家の血筋であり、次期当主と噂されているララ様と────


「あ! それから、本日は、私の双子の妹も参加します! ラナ、良いよ喋って!」


「……ごきげんよう。ラナ・アポロテミスです。本日はよろしくお願いします」


 彼女の双子の妹である、ラナ様が案内をしてくださるとのこと。


 ララ様とラナ様は、ほとんど容姿が一緒(唯一違うのは、ララ様の髪はふんわりしていて、ラナ様の髪が真っ直ぐなことぐらい)だから、全く見分けがつかない……と思ったけれど、ラナ様が静かな方だから、案外分かりやすそうだ。


「では、早速説明に入りますね! 本日、皆さんが探検する遺跡は、かつて四大神様が憩いの場として用いていた、『神々の庭』という場所です。ここは現在でも、年に一回、九つの名家の人々が集まって、アンダラスの平和を祈る儀式が行なわれています」


 その後もすらすらと話し続けてくださった。中には、現九つの名家であるルーナ達も知らないことがあったらしく、興味深そうに話を聞いていた。


 この『神々の庭』は、本来であれば、儀式の時以外、九つの名家の人々でも入ることが許されていないが、この宿泊体験の時だけは特別に許可されているとのこと。


 とは言え、流石に勝手に行動することは許されていないので、実際は、案内役付きの散歩、といった所だろうか。


 何にせよ、人生で一回、入れるか否かというぐらいには貴重な体験なので、私も含め、皆楽しみにしていた。


「では、早速探検を始めますね! はぐれないように、しっかり着いてきてください!」


 そう言って、またララ様は太陽のような笑顔を見せてくれた。


 ◆◇◆◇


「ここは、精霊のカンパニュラ族によって守られています。最近は魔物が増えていますが、ここは、この森で絶対に安全な場所と言えるでしょう」


 そんな説明を聞きながら、ゆっくりと奥へ進んでいく。森は静寂に包まれ、辺りは少し肌寒さを感じる。


 進んでいくと、途中から左右に壁が立っているのが見えてきた。神話を思い起こさせる質感の壁をよく見てみると、細かな絵が彫られていた。


 その絵は歩を進めていくごとに変わっていた。絵を見るに、恐らく、神話の出来事を描いているのだろう。


 ◇◇◇◇


 万物の長、名も無き創造主が四大神を生み出し、その四大神がこの世界を作り上げた。


 やがて神だけでなく人間も生まれ始め、互いに助け合いながら世界を発展させていった。


 しかしある時、魔王や大悪魔が平穏を壊し、世界を恐怖に陥れた。


 だが四大神は彼らを打ち倒し、また平穏が訪れた……


 ◇◇◇◇


 と、教科書に書いてあった気がする。まあ、どこにでもあるような、在り来たりな話だけど。


(にしても、何だかこの壁、違和感があるような……)


 とか考えている内に、この遺跡の最深部に来たようだ。


「お疲れ様でした。ついに、この遺跡の最大の見所、『神々の円卓』です。かつては、四大神達はここで話をしたり、お茶をしたりしたそうです。では、ここで少し自由時間とします。先ほどの壁の所まででしたら、自由に探索していただいて構いません。但し、遺跡の物には触れないように。15分後にはここに戻ってくるようにしてください」


 ではどうぞ、とララ様が言うと、皆興味津々に円卓の周りを見に行った。


 私は、先ほどの違和感の理由を突き止めるため、もう一度壁を見に行った。


 もっと時間がかかると思っていたが、違和感の原因は、案外早くに見つかった。


(あ、片側には何も描かれていないんだ)


 片側は先ほどの壁画で埋め尽くされているのに対して、もう片側の壁は、始めの2ヶ所以外、何も描かれていない。


 しかもその2ヶ所の壁画も、四大神が何者かに打ち倒されている様子と、四大神と他の何者か達が、自らの左目を差し出している様子が描かれたものとなっている。


 左目は宝石で表現されたのか、それらはきらきらと輝いている。四大神も含め、全員で12、3人の人々が左目を差し出している。


 しかし、その壁画以降は何も描かれていない。何だか不気味だ……。


「その絵が気になりますか?」


「えっ」


 ぱっと振り替えると、そこには、ラ……ナ? 様がいた。うん、見分けつかないけど、やけに無表情だし髪は真っ直ぐだから、多分ラナ様だ。


「あ……はい。ここから先は何も描かれていないし、この2つの壁画も、何だか不思議で」


「この空白の壁は、未来を表しているとされています」


「……未来」


「未来は何が起こるか分かりませんから。そういった意味で、何も描かれていないのでしょう」


 そう言うと、ラナ様は2つの不気味な壁画に目を向けた。


「この壁画は謎に包まれています。一説によると、四大神がかつての魔王に負けた様子を表していると言われていますが、それだと神話と噛み合いません。神々の劣勢を表しているとも言われていますが、だとしてもその壁画をこんな中途半端な場所に持ってくる意味が分かりませんからね……。こちらの左目を差し出す壁画も、謎に包まれています」


「なるほど……」


 もう一同、壁画を見直してみる。魔王、魔王……うーん、確かに魔王っぽい見た目をしている。


 しかし、何故だろう。この壁画を見るのは初めてなのに、既視感を感じるような────


『……たちが……』


「……え?」


 ばっと振り向く。しかし、そこには誰もいない。


(誰、が……)





『……お前達が、いなければ……っ!』





「……っ!!」


 痛い。


 ……痛い。



 ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!


 なんで!! なんでこんなに頭が痛いの!?


 違う違う違う、私は何もしていない!!!


 何も……



 ………………。




 ああ……そうか。



『何もしなかった』から、こんなことになったのか。



 何もしなかったから、今、私たちは─────



 ◆◇◆◇


「……っ」


 急に頭痛がした。しかもだいぶ痛い。


「ジル? 大丈夫?」


 かなり顔に出ていたのか、ルナが心配そうに俺を見た。


 その不安そうな青色の目を見ていると、あの時のことを思い出す。





 ……あの時?


 待て、あの時? 俺は今、何の記憶を思い返したんだ?


 一瞬で、その『あの時』のことを忘れてしまった。


 だが、何故だろう。


 俺は、その記憶が、自分の物であって、自分ではない、他の誰かの物であるような気がした。

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