第21話 襲来

「……ミリィ達、楽しくやってるかしら」


 ふと、彼女の存在がいないことに違和感を持った。


 確か、今は宿泊体験3日目。1週間あるから、彼女が帰ってくるのはまだまだ先だと言うのに。


「はあ……話し相手がいないと、何だか寂しいわね」


 調合を間違えないように、材料を真剣に量りに乗せてはいるけど、独り言を呟く余裕がある時点で、そんなに集中力を保てているわけでもないのだろう、多分。


(……あれ、この植物足りない……さっき間違いなく持ってきたはずなのに)


 机の周り、棚の中、床、ざっと目を通して───自分が間違っていることを認識させられた。


「しょうがない……」


 庭に行く他ないだろう。


 私は重い腰をゆっくりと上げた。


 ◆◇◆◇


「ええと……トリカブトはどこら辺だったっけ」


 面倒くさくてヒールのある靴で来てしまったけど、大丈夫だろうか。


(……って、そんなことを注意しに私に話しかけてくる人なんて、あんまりいないけど)


 とか寂しいことを思っている内に、お目当ての植物を見つけた。


(あったわ)


 そうして手を伸ばそうとした────その矢先。


(……何? この、嫌な気配)


 そうして後ろを振り返って────私は倒れこむように攻撃を避けた。


(!? 誰……誰なの!?)


 フードを被っていてよく見えないが……何にせよ、敵意があるのは間違いなかった。


「……転移魔法」


 自身の武器に転移石を着けておいて良かった。おかげで、こういうときすぐに戦える。私はハルバードを持って構えた。


「……来なさい」


 柄をしっかりと握る。戦闘なんてここしばらくやっていないが、かと言って相手に背を向けることも出来ない。この方向だと、どう頑張っても逃げてる最中に攻撃される。


 とは言え、別に相手に一撃で致命傷を負わせる必要もない。かすり傷で良い。それさえ出来れば────。


(……来た!)


 相手の攻撃をぎりぎりの所で躱し、ハルバードを勢い良く振った。


「……っ!」


 ばっ、と相手が離れる。


 占めた。かすり傷を負わせられた。これで……。


「……!? ぐぅっ……!」


「……早いわね。流石私の毒」


 敵が手をわなわなと震わせる。無理もない。だって────


「その毒、一回肌に触れたら、皮膚と肉を溶かすから。拭っても意味無いわよ」


 ……武器に、私お手製の毒を仕込んでおいて正解だった。少し切っ先を掠めれば、すぐ毒が回るんだもの。これほど便利な殺し道具は無いわ。


「貴方が何故私のことを殺そうとしたのか、分からないけど……何にせよ、私を選んだのは間違いだったわね」


「……」


 ぎろり、と睨まれた。顔全体は見えなかったけど、私を恨むような眼光は、フードの奥底から見えた。


 けど別に、これぐらいの反応、もう慣れっこ。今に始まったことじゃない。


「だって私……6人兄弟の中で、一番殺しに向いているんだもの。逆に生かす方が難しいわ。……でも、貴方からは話を聞かなきゃいけないから……」


 頑張るわね。貴方を生かせるように。


 その思いを込めて、ハルバードを握り直した。


 ────その瞬間、後ろで動物の悲鳴が聞こえた。


 ばっ、と振り返ると、そこには見慣れた魔術陣が展開されていた。


「……え」


「油断しないでください、レイス」


 すっ、と音もなく現れたウィルに、心底びっくりした。


「ウィル? どうして……って」


 改めて後ろを見てみると、そこには牙を剥き、今にも私を食い千切らんとする獣達がいた。


「幸いにも、魔物ではなく、魔法によって操られているただの獣の様ですが……咬まれたら致命傷を負うことは間違いないでしょう」


「……そう。助かったわ。ありがとう、ウィル」


「レイス、貴女はその男の相手をお願いします。私は獣達を生け捕りにしますから」


「了解」


 ウィルと向かい合わせになって、相手に向き直る。


「……ウィリアム・ニーケー・アンダラス、レイス・リア・アンダラス……」


 ぼそっ、と男が呟いた。


「……出来損ないの、王族達……」


「……」


 その言葉に────私の中で、何かが変わった気がした。


「────喧嘩なら買うわよ」


 私は武器を握った。


「……絶対に逃がさない」








 もう、歯車は動き始めている。

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