第18話 精霊の森

「ようこそ、アンダラス国立学校の皆さん。村長のジョージ・テヘナです。今日からしばらくの間、よろしくお願いしますね」


 よろしくお願い致します、と皆声を揃えて言った。


 ついに始まった宿泊体験。私達が寝泊まりする場所は、精霊の森中心部、アポロテミス家のお屋敷がすぐ近くにある、テヘナ村だ。


 ここは観光地としても有名だけど、毎年この季節は、私達アンダラス国立学校の生徒の貸し切り状態となる。


 というのも、ここの村は通常より広く、栄えているとはいえ、宿屋が1つしか無い。そのため、40人近くの生徒と、数人の教師陣が泊まるだけでもういっぱいになってしまう。


 そんなわけで、今ここには、私達と、テヘナ村の住民の方しかいない。


「まずは、テヘナ村を案内します。どうぞ、着いてきてください」


 その言葉に従って、私達は着いていく。


 周りは自然がいっぱいで、人が多い王都に比べると、すごく静かで落ち着く。


 でも、それと同時に、この広い自然が私達を7日間苦しめるのか……と考えると、少し憂鬱な気分になるのも事実。


 何とかやる気を上げるため、この森の良いところを見つけることにした。植物がいっぱい。野生の小動物が可愛い。空気が美味しい……それから……。


 ◆◇◆◇


「では、早速班活動を始めます。これから皆さんには、九つの名家のカンパニュラ家の由来となる、カンパニュラの花を探していただきます。ただし、採集は1人1本までとします。もし採集出来れば、今日のディナーのサラダの彩りが良くなるので、皆さん、頑張ってください。では、開始!」


 一通り見学が終わり、班活動の時間となった。


 私の班員は、私、ルーナ、エルザ、ミリィの4人だ。最近は魔物の襲撃が増えてきているのもあって、あまり話したことの無い人と組むよりも、信頼し合える人と組んだ方が良い、となり、このメンバーになった。


 このメンバーだと、そんなに無理をしなくて済むし、この班活動も上手くいくだろう。何故なら……。


「じゃ、案内よろしくお願いします、ミリィ」


「あんた達……私のエルブ属性を良いように使わないでくれる? 別に良いけど」


 そう、草属性のミリィがいるからだ。


 しかも、ミリィの能力「植物を見分けることが出来る能力」で、より良い植物を見つけることが出来る。


 こういうのがあると、本当便利よねえ。しかも平和的な能力だし……。


「それじゃあ、早速出発!」


「おー!」


「……ルーナとマリー、元気ね」


「うるさいぐらいよ」


 ◆◇◆◇


「ねえ、本当に良いの……?」


「良いんだよ。贅沢三昧の貴族様に、少し困ってもらうだけだし」


「でも、だからって先にカンパニュラの花を抜いたり、方位魔石狂わせるために魔法使わなくても良いじゃん……」


「あんたの【トネル】、本当に宝の持ち腐れね」


「うるせえな! それに、お前達だって貴族の奴ら、嫌いだろ?」


「……まあ確かに、今までの人達、ずっと高飛車だったけどさ」


「私のお母さんが死んだのも、貴族様のせいだしね。……まあ、ああいう人達だけじゃないって、分かってるけど」


「……一人だいぶ事情が重い奴がいるけど……まあそういうことだ!」


 そういって、ジャンは抜き取ったカンパニュラを手に掲げた。


「たまには痛い目、見て貰おうぜ?」


 その笑顔には、純粋な悪意しか残っていなかった。

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