第2章 思い出す過去

第17話 宿泊体験に向けて

「ルイスちゃん! おはよう!」


「おはようございます、マリー様」


 馬車から出てきた彼女の姿は、暑くなってきた今の季節と違って涼しげだった。


「だんだん暑くなってきたねえ」


「そうですね……あ、そうだ」


「ん?」


 すっ、とルイスちゃんが手をかざすと────辺りが少し涼しくなった。


「どうでしょう。少し涼しくなりましたか?」


「おおすごい! ありがとうルイスちゃん! やっぱり、氷属性だと便利だねえ」


「使い勝手は良いですね」


 そんな感じの会話を交わしながら、校門へと歩いていく。


 あの事件から、数週間。もうすぐ、私の誕生日。


 祝福姫が17歳の誕生日を迎えた後、災厄が訪れる。


 その「迎えた後」というのが、どれぐらい後なのかはその時によって違う。1年後の場合もあれば、翌日に起こることもある。……らしい。


 何にせよ、もう約束の時は近い。


 でも、その日を迎えるまでは、こうやってゆっくりしてて良いと思うのだ。


 例えば、今のように。


「そういえば、高等部の方には、『宿泊体験』というものがあると聞きましたが……」


「ああ、あれね。来週行く予定だよ」


「そうなのですね。どちらに向かわれるのですか?」


「クラスによって違うんだよね。大体は栄えてる街に行くんだけど……」


「マリー様のクラスは違うのですか?」


「うん……っていうのも、ほら、私のクラスは、能力者がいるクラスじゃない? だから、通常よりちょっと厳しめの体験らしくて」


「……と言うと?」


「……まあ、言っちゃうとさ」


 私は、あの目的地を思い出して、少し憂鬱な気持ちになった。


「……『精霊の森』に行くんだよね」


 ◆◇◆◇


「『精霊の森』はかつて四大神様が憩いの場として使われたり、九つの名家の方々が儀式として使われる神殿があります。『精霊の森』は九つの名家の1つ、アポロテミス家の方の管轄となっており、そこの儀式を取り仕切っていらっしゃるのも、アポロテミス家の方です」


 ここ最近は、宿泊体験に向けた事前講義が多い。例えば今のように、精霊の森に関する歴史とか、魔物や野生動物と遭遇した時の対処法とか、礼儀作法とか。


 この学校では、宿泊体験というのが、高等部2年の時にしか行われない。それもあって、皆真剣に取り組む。


 宿泊体験は1週間。その間、訓練をしたり、時には遊んだりして、学びや価値観を広げていく……というのが目的らしい。


 私も皆も、最初で最後の宿泊体験に胸を踊らせている────が、ここで1つ問題が。


 そう、私達の行く『精霊の森』というのは。


「歴代の先輩方も、7日目には疲労困憊の状態で帰ってきました。……それぐらい、精霊の森での宿泊体験は過酷です。皆さん、覚悟するように」


 メントリー先生の真剣な表情に、皆息を飲んだ。


『精霊の森』。


 そこは、私達、能力保持者クラスの生徒の体力を根こそぎ持っていくことで知られている。

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