第16.5話 審判の後で

「お疲れ様です、ジル殿下」


「ああ」


 いつもと変わらず無表情だったが、そこには疲れと安堵の色が見えている。


(……それにしても、さっきは凄かったな)


 ◆◆◆◆


『……お前達から見て、彼らはどうだった?』


『……感情論を抜きにしたとしても、あそこまでやられたら、無実だと言う他無いでしょう。それこそ、欺くにはあまりにもリスクが大きい。あそこまで言って有罪だったなら、むしろ愚かです』


『まあそれに、元々真面目な家だったから、裏切るなんてこと、無いと思いますよ。……あそこまでいくとやりすぎな気もしますけど』


『……そうか。まあ、そうだろうな。彼らは確かに無実だろう。ミリアスやジルの言った通りだ。しかし、あそこまでいくと、もはや恐怖を感じるな』


 そう言って陛下は少し顔をしかめた。


『……無いとは思うが。お前達、気を付けろ。あの令嬢───メチレル嬢は、敵を徹底的に潰す性格だろう。まだジルや私の方が優しいだろうな』


『……今、軽く私を蔑みました?』


『……気のせいだ』


 ◆◆◆◆


(ルイス様……いざと言う時、躊躇無く牙を向き、我が身を捨てに行くような姿勢は、ね。それでいて頭の回転も速い。全く、末恐ろしい方ね)


「ティア、お前も疲れただろう。今日はもう良い。休め」


「ありがとうございます。殿下もゆっくりお休みください。では、おやすみなさいませ」


「ああ、おやすみ」


 そう言って私は、殿下の部屋を出た。


 ◆◇◆◇


「……あ、ティアちゃん」


「リリー様。先程はお疲れ様でした」


「あはは、お互い様だよ」


 リリー様は、そうやって優しく笑うと、少し懐かしそうに目を細めた。


「……相変わらずだったね、ルイス様」


「ええ。……、やはり変わりませんね」


「何なら、ジル様も、マリー様も……フリード様だって、変わらないよ」


「……そして私達も、ですね」


「ふふ、そうだね」


 そう言うと今度は────泣きそうな顔で話しかけてきた。


「ねえ、ティアちゃん」


「はい」


「……私達、またあの時みたいに、皆で笑いあえるかな?」


「……」


 私は、即答することはできない。


 また、同じように『─────』を繰り返すかもしれない。


 また、失敗してしまうかもしれない。


 でも、それでも。


「……出来ます。いいえ、私達がやるんです。また、あの時のように、皆で集まれるように」


 そう言うと、リリー様は私と正反対の黒い目を少し見開いて、また微笑んだ。


「……そうだね」




 ────まだ、私達は、迫り来る困難を知らない。


 それでも、絶対に打ち勝って見せる。


 また、あの日を取り戻せるように。

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