第10話 愛する人を守るために

「ティア、紅茶を用意しろ」


「はい、ただいま」


 そう言って、ティア様は去っていった。


「陛下、この度はこのような会議をお開きいただき、誠に感謝しております。私達もこの事に真摯に向き合って参りますので、今後も何卒ご協力賜れば、これほど幸せなことはございません」


「良い、貴方達も大変だろう、祝福姫がここまで無事に育ってこれたのも、貴方達のおかげだ、感謝している。……祝福姫も、大変だろう。我々が全力で支援させてもらう、何かあったら遠慮なく頼りなさい」


「はい、有り難き幸せでございます」


 陛下は先ほどと打って変わって、穏やかだ。同じ無表情なのにも関わらず、安心させてやりたい、という思いが伝わってくる。


「マリー、座ったら? 無理して倒れられても困るわ」


「ありがとう、ミリィ……」


「……別に、お礼言われることじゃないわよ。後で焼き菓子あげるから、何が良いか選んで。あと、気分を落ち着かせる茶葉もあげる。それから……」


「ミリィ、心配なのは分かるけど、マリーだってそんなに渡されても困るわよ」


「べ、別に……いや、心配してないわけじゃないけど……」


 そう言って、ミリィは目を伏せた。素直じゃないけど、人の事を気にかけて、心配してくれる、優しい子。


「久しぶり、マリー。どうせならお互い、心身共に、もうちょっと元気な状態で会いたかったわね」


「久しぶり、レイス。そうね、まあでも、五体満足で会えたから」


「ふふ、そういうところは相変わらずね」


 レイスは優しく微笑んだ。でもそれから少し表情を曇らせた。


「……私は学校にも行けないし、下手に動き回れないから、何か貴女に協力することは難しいけれど……話を聞くぐらいなら、いつでも受け付けるわ。だから、好きな時に遊びに来てちょうだい」


「ありがとう、レイス」


 レイスはミリィの双子の姉。だからなのか、纏う雰囲気が、ミリィと少し似ている。だけど、姉だからそれなりにしっかりしている。それもあって、私にとってレイスは甘えやすく、多分、姉がいたらこんな感じなんだろうな、と常々思う。


 そんなこんなしているうちにティア様が戻ってきて、私達に紅茶を振る舞ってくれた。


 その後した話は、もちろんこれからについての話だったが、少し談笑したりもして、気持ちが落ち着いた。


 多分、陛下達は、少しでも私達に元気を出させようとしてくれたのだろう。


 おかげで、少し心が暖められた。


 ◆◇◆◇


「マリー、ちょっと」


「はい、お母様……わぷっ」


 お母様に近づくと、ぎゅうと抱きしめられた。


「マリー。私とお父様はね、貴女が祝福姫であろうとなかろうと、それ以前に、貴女が大事な大事な娘なの。貴女を愛していて、貴女が健康で、幸せでいてくれたら、もうそれ以外のことは望まないわ。だからマリー、あまり思い詰めないようにね。貴女は、私たちの掛け替えのない、たった一人の娘だから」


「……お母様……」


 お父様も近づいてきて、やがて私とお母様を一緒に抱きしめた。


「マリー、世間にとっては、君は『祝福姫』なんだ。その事実は、心に非常に大きな負担をかけるだろう。しかしお母様も言った通り、祝福姫以前に、君は私達の愛する大事な娘だ。そのことを、忘れないでいてくれたまえ」


「お父様……」


 ああ、泣くつもりなんて無かったのに。


 2人が泣くから、私は泣いてしまったではないか。


 おかしいな、今まではずっと、『祝福姫』なだけだったのに。


 この2人は、私を『私』として見てくれる。


 掛け替えのない、自分達の『娘』として見てくれる。


『愛されている』ということを実感して、私は涙が止まらなかった。


「ありがとう……ありがとう、ございます、お母様、お父様…………っ」


 酷い世界だ、本当。


 こんなに良い人たちを奪うかもしれない災厄がやってくるなんて。


 そんなの、許せない。


 だからこそ私は、動かなければならない。


 愛する人たちを、守るために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る