第8話 決意

「先ほど、ミリアスから情報が入った───祝福姫の正体について、学校で話しているものがいた、と」


「ええ、しかも、なんの変哲もない、ただの女生徒がね」


「……私も、先程カミリアから話を聞きました。カミリアは、災厄が起こる時に祝福姫が現れるということを知っているそうです。ただ、その情報は文献から仕入れたものであり、多くの人間は、祝福姫の正体がマリー・フェール嬢であることしか知らないようです」


「……その噂話は、城内の使用人が話していたのか?」


「カミリア曰く、そうだと。……ただ、それが誰だったかまでは把握しきれていないそうです」


「……かなり不味いわね。誰が、どこまで知っているか分からない以上、下手に詮索も出来ないし……」


 ミリィは苦々しく言った。確かに彼女の言う通りで、下手に動くと、逆に情報が漏れてしまうことだって十分にある。かと言って───


「野放しにしておくのも、問題でしょうし」


 そう、ウィスが呟いた。どちらにせよ、慎重に、なるべく被害を出さないよう、動く。暗にそう言いたいことは伝わった。


「……まずは、情報を集めることからでしょうか。今のままでは、何も分かりませんし。それから、早急に、祝福姫の正体を知っている者全員で会議を開いた方が良いかと」


「……ウィルの言う通り、今は何も分からない。俺もそれに賛成だ」


 ウィルの言葉に、フリードが賛成した。他の兄弟達も、皆頷いている。


「……ならば、明日に開こう。緊急だ。ジェームズ、お前は九つの名家の当主に手紙を配れ。フリード、ジル、ウィスティリア、ウィリアム、レイス、ミリアス。お前達はなるべく多くの情報を集めろ」


「……はい。父上のお心のままに」


 ◆◇◆◇


「ねえねえ、ウィル。ウィルはさ、どう思う?」


「どう思う、とは……祝福姫の情報が、どうやって外に出たか、ということでしょうか?」


「そうそう! 誰かが告げ口したとか!」


 何だか楽しそうに、彼は言った。


「ふむ……それは、何故ですか?」


「何故って……祝福姫の情報を知ってるのは限られてるでしょ? ってことは、裏切者───もしくは、内密者がいない限りは、情報が外に漏れるって、なかなか無くない?」


「……しかしそれだと、誰が情報を渡したか、すぐに特定されますよ。そうなったら、自分の身が危険になるのは当たり前です。私が思う限り、そんなことをしてまで情報を渡すような人が、思い浮かばないのですが……」


「そうだよねえ……あっ、それかさあ……」


 彼はにやりと───まるで悪魔のような笑みを見せた。


「……誰かが盗み聞いてたとか」


「……出来ると思いますか?」


「…………無理そうだね。少なくとも、あの警備じゃ」


 そういうと、大きくため息をついて、つまらなさそうな顔をした。


「あーあ、ウィルってつまんないよねー。そうやって冷静に返してくるから」


「……これを真に受けたら受けたで、馬鹿だと言ってくるんでしょう。知ってますよ」


「あはは、当たり前じゃん。だってさあ……」


 また悪魔のような、意地悪そうな笑顔で、俺を罵る。


「……『ニーケー』の名を持ってるにしては秀でた能力はないし、他の兄弟より才能は無いし。そんな君が馬鹿だったら、もう何にも残ってないよ」


 あはははは。


 そう言って、彼は姿を消した。


 知っている。自分が周りより劣っていることぐらい。何も無いことぐらい知っている。


 あるのは、変に不器用な性格と、中途半端な正義感だと言うのも。


 ウィリアム・ニーケー・アンダラス。


『王の素質を持つ者』を意味する『ニーケー』の名を授かったにも関わらず、それに反するように、たった一つの能力にしか特化しない、『紫苑』の力を持った、【紫苑闇帝ヴィオレ・テネブルアンペラル】。


 力が、無かったとしても。


 かつて兄上に救われた俺のように。


 俺も、誰かを救い───兄上が愛するこの国を、良くしていくのだと誓ったのだから。


 祝福姫。彼女の抱えるものはきっと大きい。


 これ以上、全てを背負わぬように。

 

 そして───を二度と繰り返させぬように。


「……俺が、俺達が、動かなければ」


 ◆◇◆◇


「旦那様。王城から、お手紙が届いております」


「……開いてくれ。今読む」


 城からの手紙。その言葉で、食卓の場に緊張が走った。


 お父様は手紙を受け取り、読み始めると、少し顔をしかめた。


「……シーラ。明日、王城に行ってくる」


「分かりましたわ」


「お父様、気をつけてください」


「分かっているさ、ルイス……2人とも、すまない。明日は家族で過ごそうと言っていたのに」


「仕方ないです。それが、陛下のお心なのですから。それに……」


 私は、寂しさを悟られないように言った。


「九つの名家として───王城に呼ばれることがあるのは、当然なのですから」

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