第6話 魔法の力

 授業が始まって、1週間が経ったある日。今日は今年度初めての、魔法学の実技だ。


 武芸でやる魔法と、魔法学でやる魔法の実技授業は、少し異なる。武芸でやる魔法は、いわゆる「戦闘用」。


 この世界には、魔物が存在する。その魔物たちがいつ襲ってきた時、ある程度自己防衛できるようにするためのものだ。


 とは言っても、魔物に会ったときはまず最初に逃げろ、と教わっているし、そもそも都市部にいる以上、魔物に会うことはまずない。よって、あまり使わないのだ。


 一方、魔法学での実技は、「日常用」。日常で使える範囲のものを使用したり、魔法を精度を高めたり、中級、上級の魔法を使えるように練習したり……など。ようは、戦闘のこと等は基本考慮していないもの。


 私はどっちかって言うと、武芸の方の実技授業が好き。何故なら遠慮せずに魔法が放てるから。


「それでは皆さん、杖を持って。まずは準備運動で、初級魔法の『輪の収束』を行います。人形に向かって行ってください。いきますよ? せーの」


「闇の輪よ、収束せよ」


 どの生徒も、それぞれの属性の魔法の輪で人形を締めた。


 この人形は、魔法の被験体で、各属性に対応した作りとなっている。例えば、火や炎属性に対しては、燃えないような仕組みになっている、とか。


 そんな感じで、準備運動から始まった授業だけれど……そもそも私の級友は、魔法に長けている人しかいないから、すいすい授業が進む。


 というのも、私含め、この組の人は全員能力者。能力は、魔法がある程度使えるようになって初めて使えるようになるものなので、能力を扱えるというのは、それなりに魔法が使える、ということになるからだ。


 私は祝福姫の生まれ変わりだし、ルーナやエルザ、ミリィは九つの名家の出だから、上級魔法をぽんぽん使える。


 そうでなくても、全員中級以上の魔法は使えるので、ここは他のどの組よりも授業の進み具合が速い。


 まあ、ここで魔法が使えるからといって、武芸の授業でも上手く扱えるとは限らないけどね。魔法の使い方や趣旨が全く違うから……。


 ◆◇◆◇


「ではマリーお嬢様、よろしくお願いいたします」


「はい、よろしくお願いいたします」


 放課後、私は家で魔法講師の先生から講義を受けていた。


 私は幼い頃からこの先生の元で習い事をしている。祝福姫の生まれ変わりとして、いつ、どこで魔法を使うか分からない以上、私は一般人と同じぐらいの学習をしていたら駄目なのだ。鈍ってしまう。


 だから毎週、こうやって魔法だけでなく、剣術や格闘技、能力など、多数の先生から講義を受けている。


「準備運動も済ませたことですし、今日は久しぶりに上級魔法の特訓をしてみましょうか」


「本当ですか!」


「ははは、マリーお嬢様は本当に魔法がお好きですね」


「魔法も剣術も能力も、全部好きですよ。……実践はしたくないですけどね」


「それは皆そうでしょうな。しかし、貴女は本当に勉強熱心だ。私も教えがいがありますよ」


 先生は満足そうに、にこりと微笑んだ。


「それでは、まずは的に当てましょう。どうぞ」


「はい」


 私は的に向かって手をかざす。


 多くの人は杖を使うことが多いけれど、私は使わないで魔法を発動させる。


 本当は杖の方が良いし、実際魔法使いの人は杖で魔法を使っている。しかし私は剣で戦うので、どうしても手で発動させる他無いのだ。


ヴォル・テネブル・エル羽ばたけ闇の翼よ


 黒く、闇のような翼の形をした魔法弾が的を壊した。良かった、鈍っていないようだ。


「流石ですね。では、次は私が球を動かすので、上手くそれに当ててくださいね」


「はい」


 先生が球の準備をしている間、私は何となく空を見上げた。


 水色の、澄み渡る快晴。私は横から差してくる太陽の眩しさに目を細めた。


 綺麗だ。この空だけは、昔からずっと変わらない。


 私はこの空に懐かしさを感じた。


 こうやって、昔も、誰かと空を眺めていた気がする。

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