第3話 九つの名家

 ついに、本格的な学校の授業が始まった。


 私達の学校の学習内容は、大まかに分けると、魔法学、能力学、学問、武芸の四つに分かれている。


 今日の1時間目は、魔法学だ。


「今年は昨年よりも実技授業を増やしていきます。皆さん、しっかりついてきてくださいね!」


 魔法学・歴史担当は、ミランダ・リエル先生。あ、この人魔法学の先生かなーってぐらい魔法好きなのがすぐ分かる。


 実技は多くの先生が担当している。何せ魔法属性は12種類もあるから、その分、先生を用意しなければならない。


 魔法属性は、【オー】【フゥー】【エルブ】【ルミエル】【テネブル】【ヴァン】【プワゾン】【トネル】【ソル】がある。ただし、【オー】【フゥー】【エルブ】に関しては、練習すれば新たな属性を手に入れることが出来る。それを【進化属性】といって、種類は【グラス】【フラム】【植物プラント】の3つ。


 魔法を使える範囲が広がったり、使える魔法の種類が増えたりするだけだけれど、この【進化属性】はまあまあ珍しいというのもあって、持っているとちょっと尊敬される。


 とはいえ、生まれつき持っている人もいたり、いくら練習しても習得できない人もいるから、それはもう、才能の域な気がする。


 ちなみに、私の属性は闇だ。


 ◆◇◆◇


 2時間目は座学。座学は語学、数学、理科、社会。今日は社会。社会は、1、2年生の間は、歴史と地理を教わる。正直、地理は苦手だから、ずっと歴史で良い。


 とはいえ、歴史も歴史で、ちょっと複雑な気持ちになる時もあるけど……。


「さて、1年生の頃は、主に神話や古代を中心に勉強してきました。2年生からは、中世、近世をやっていきます! 皆さんお待ちかね、『九つの名家』、『祝福姫』……たくさんの人々がでてき……こらそこ! 寝ないの!」


 もう寝る体勢に入っている人がいる。あ、あの人……2年生になっても変わらず、肝が座っているわね……。


 それにしても、『九つの名家』はどの年でも出てくるのね……まあ、当たり前なんだけど。


 九つの名家。


 それは、このアンダラス王国に存在する、特別な家系を指す。


 アンダラス家【戦】


 カンパニュラ家【守護】


 アネモス家【知恵】


 パーリィ家【力】


 ファンタズマ家【幻】


 アマルテミル家【法と罪】


 メチレル家【魔法】


 アポロテミス家【月と太陽】


 ゼオス家【神】


 それぞれに象徴する力が存在し、また、神に近い家系ともされている。


 何故存在しているのかは様々な説があるけど、一番有力なのは、この世界を作った神、【四大神】によって産み出されたからとされている。


 この九つの名家、貴族であっても話せる機会が少ないのだけれど……私は実は、王族であるアンダラス家を除いた、九つの名家の方と話したことがある。


 そう、ルーナとエルザだ。


 それもあって、私は年度始めの歴史の授業をする時、毎回ルーナとエルザの表情を見てしまう。とは言っても、二人ともなんら気にしていないのだけれど……。


 ルーナはファンタズマ家、エルザはアマルテミル家の令嬢。ルーナとエルザは九つの名家の者として、私は祝福姫の生まれ変わりとして、よく王城に行っていたからミリィと仲良くなることが出来た。


 今にして思えば、私達がこんな形で出会えたのは奇跡なのかな……なんて思ったりする。


 ◆◇◆◇


 3時間目は、武芸。武術は、必修の舞踏、魔法、馬術と、選択科目の護身術・格闘、剣術・弓術がある。


ちなみに芸術は音楽か美術、どちらかを選択する形式となっている。


 芸術に関しては、私は絵の才能が絶望的に無いので、音楽を選択した。


 武術は、格闘と剣術を専攻する。とはいっても、前世では、人を相手にすることは片手で数える程度だったから、格闘をやる必要はあまりなかった。


 ただその代わり、剣で魔物と戦っていたのもあって、剣術は優れている(と思う)。今世ではまだ戦ったことはないけれど、感覚を忘れたくないから、習い事をしていた。


 そんなわけで、剣術を選んだわけだけれど……聞いた話によると、魔法、舞踏、格闘、剣術、馬術の順にやるとのこと。


 残念ながら、剣術はまだ先らしい。


 ◆◇◆◇


 4時間目は、能力学。


 今年から、能力の実技授業が本格的になるとのこと。ただ、実技に関しては、成績に入らないらしい。


 その理由は……。


「能力は、非常に危険なものです。この学年は全員で約360人いますが、その中でも、能力を持っているのは、この組の皆さん、たったの36人しかいないのです。それぐらい少ない人数ですから、能力の種類がどれくらいあるのか、事例が少ないのです。まだ分からないことだらけのものですから、皆さん、安易に使わないように。そして、実技授業中は、必ず、講師の目の前で使用するように。良いですね?」


 そう。能力を持っている人は、非常に少ない。だから、全員に実技の成績は入れられない。


 能力は危険だから、実技授業は、能力を持っている人は必修。基本は普段の授業の枠に入るけど、たまに休日に実技授業が入るらしい。い、嫌だ……せっかくの休日が……。


 能力は、生まれつきのもの。けれど、いつ、どこで、どうやって判明するか分からない。人によっては、学校を卒業した後に判明する人もいるらしい。


 血筋に関係なく持つ人も案外いたりするけど、もちろん、血筋が関係している人もいる。


「例えば、九つの名家の1つ、カンパニュラ家の方ですね。あの方々は、『守護魔法を使用出来る能力』を持っていらっしゃいます。優れた守護魔法の技術を持っている方は、王位継承者、特に、第一候補の方に一生を捧げます。ジル殿下の側近、ティア様が良い例ですね」


 カンパニュラ家の方は、能力が判明次第、王族の方に仕えるため、すぐに英才教育を受け、格闘、剣術、弓術、その他たくさんの武芸を身に付けるらしい。


 能力は、幼い頃に判明することが多い。即ち、それらの教育を幼い内に全部受けることになる……考えただけでも大変なのが分かる。


 それを乗り越えたのだから、やっぱり、王子の隣に立つだけのお方であることは間違いない……。


 ◆◇◆◇


「お昼だね……なんか、長かった……」


「そうだね……武芸で魔法使ったし、ちょっと疲れたね」


「早く食べましょう」


「エルザが早く食べたがっているですって!?」


「これは……明日、槍が降るね」


「私を何だと思ってるの?」


 その時、ルーナが不意に立ち上がった。


 どうしたのか、と見ると、ルーナはミリィの元へ歩いていった。


「ミリアスちゃん! 一緒にご飯食べよう!」


「……え」


 ちょっと驚いたようにミリィが呟く。ちらりと私達の方に目をやって、またルーナに目を合わせる。


「……良いの?」


「うん! それに、一緒に食べたかったの! お話し聞かせて?」


 するとミリィは、少し考えて、やがて、お弁当を持って立ち上がった。


「じゃあ、お邪魔するわ」


「やった! じゃあじゃあ、食べよう!」


 ルーナは、満足そうに席に着く。


 いただきます、の声と同時に食べ始めた。


 ◆◇◆◇


「ねえねえ、ミリアスちゃん。前から気になってたこと、聞いて良い?」


「……良いけど」


「ミリアスちゃんって、ゼオス家の血を継いでるけど、【白銀ラルジャン】の力ってどんな感じなの?」


「さあ。私も分からない。【白銀ラルジャン】は特殊だから……」


 そう言って、昼食を口に入れる。


 九つの名家の一つ、ゼオス家。神を象徴する家であり、その象徴通り、神に最も近い一族とも言われていて、その力は強大だと言う。


 彼らの多くが水晶の中で過ごす。でも、時々、水晶の中ではなく、外の世界で暮らせる人々がいたりする。そんな人々は、本人の意思と関係無く、王位継承者の婚約者になる場合が多い。


 ミリィのお母様、現女王陛下はゼオス家の方。だから、ミリィ含め、今の王位継承者候補の方全員、ゼオス家の血を継いでいる。


 ゼオス家の方には、代々、【神帝の力】が引き継がれていて、ミリィにも、その力がある。昔、授業で【神帝の力】の種類を全部覚えさせられたな……良い思い出……。


【神帝の力】は、属性と、色に分けられる。属性に関しては特別なことはない。ただ、一般人より強力な魔法が使えたり……といったような感じだ。


 色は、その人の才能や持っている力を表す。基本は何に秀でているか、特化しているか、など分かるらしいけど、ミリィの持っている【白銀ラルジャン】は事例が少ないからなのか、今でもよく分かっていない。


 ミリィの【神帝の力】は、【白銀草帝ラルジャン・エルブアンペラル】。その証拠に、髪は綺麗な銀髪で、目は草花を連想させるような、鮮やかな黄緑。


 相変わらず、綺麗だなあ……。


「ごちそうさま。……ちょっとルーナ、あと少ししか時間ないけど、大丈夫? 食べ終わる?」


「う、うん……多分……」


「……お腹痛くなったら、言いなさい。胃薬持ってるから」


「ありがとう……多分大丈夫」


 ルーナは苦笑いをする。喋り過ぎていたからなのか、半分も食べ終わっていない。


 私は時計を見た。もうすぐでお昼休憩が終わる。


 あと、少し、頑張ろう。

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