第2話 『祝福姫』の生まれ変わり

 ミリィと私(正確には、ルーナとエルザも)は、幼なじみだ。

 

 私たちが王族であるミリィと仲が良いのは、とある理由で昔からよく王城に行っていたから。


 そうでなければ、こんなに仲良くなれなかっただろうなあ……。


「……全く、本当あんたって、相変わらず『祝福姫』の生まれ変わりとは思えない威厳の無さね」


「あのねえ……『祝福姫』って、そんなに威厳たっぷりの人間じゃないから! 皆の勝手な想像だよ! そ、う、ぞ、う!」


「それ……自分で言ってて悲しくならない?」


「いや、全く」


「……そう」


 少し、微妙な顔をされる。なに、その何とも言えない顔は……。


 私はつられて、微妙な顔をしていた。と思う。


 ◆◆◆◆


「……ねえねえ、マリー様の噂、知ってる?」


「いえ……どんな噂なの?」


「実は……マリー様って、『祝福姫』様の生まれ変わりなんじゃないかって言われているの」


「『祝福姫』様!? ちょっと、それが事実ならすごくない? だって、歴史上に何度も名を残しているのよ?」


「ほんとよね。だから私、一度で良いからお話ししてみたいの……」


 ◆◆◆◆


「それにしても、本当に久しぶりね、ミリィ。入学するって聞いた時はびっくりしたわ」


「そうだよ! なんで入ろうと思ったの? 前は研究の方に集中したいって言ってたじゃん!」


 エルザとルーナが矢継ぎ早に聞く。


「……別に。興味が出ただけよ」


「興味が出ただけって……外部生は入学試験受けなきゃなのに、よく受かったね……すごい難しいらしいのに」


「対して難しくなかったわ」


「これだから天才は……大方、数学と理科で得点取って受かったんでしょ」


「数学はともかく、理科に関しては私の研究より簡単よ」


 なんでもないようにミリィは言った。こ、これだから天才は……!


「最近はどんな研究をしてるの?」


「今は人体学に関する研究をね。薬の影響をどれくらい受けるかを知るために」


 人体学。ミリィは化学と植物に関する研究が得意なイメージだったけど、そこまで出来るのか……そうよね、考えてみればこの人、がっつり理系だったわ。


「面白そうね。是非見てみたいわ」


「というか、折角だから今度城へ来なさいよ」


「あら、良いの?」


「良いわよ。マリーとルーナも来る?」


「良いの!? 行きたい!」


 小さな子犬みたいに、ルーナははしゃいだ。ああ……っ。可愛い。本当可愛い。撫でても許されるかしら??


「マリーは?」


「もちろん! すごく嬉しいよ!」


「じゃあ、今週末来なさい。とっておきのお茶を用意しておくわ」


「やったー!」


 笑顔のルーナに、私も笑みが零れた。


 ……余程酷い笑顔だったのか、何だかミリィとエルザからの目は冷たかったけれど、気にしない。


 ◆◇◆◇


『災厄が起こったとき、四大神マリアによって生み出された祝福姫が蘇り、人々を救うだろう。愛と創造の力を与えられた、もう1人の勇者が』


 それが、『祝福姫』の伝説の始まりの言葉だ。


 祝福姫。このアンダラス王国の長い歴史に残る重要人物の1人であり、多くの人々を救った、勇者フォルティメに次ぐ、もう1人の勇者。その彼女が私の前世であり────今世の私でもある。


 黒に近い灰色の髪も、深紅の瞳も、祝福姫が持つ特徴の一つ。


 私……もとい祝福姫は、災厄が起こった時、人々を守り、救い、祝福を与える。


 ……と言っても、今のところ特に災厄は起きていない。仮に起きても、前世からの知識や経験も備わっているから、(自分でいうのもなんだけど)そう簡単には倒されない。とは言え不安なものは不安なので、いつ何があっても良いように、幼少期から魔法と剣の特訓をしている。


 それに、私が覚えている前世は、せいぜい1、2個。1つ前の時のものは正確に覚えているけれど、それより前のものは微妙だ。しかも、いつ、どこで、どうやって生まれたか、もう覚えていない。


 四大神の1人、マリア様に産み出されたと言われているけれど、そんな記憶も、自覚も無いし……。


 ただ、1つ覚えているのは……私の力は、強大で、扱い一つで人を救うこともできるし、殺すこともできるということ。


 だから、あまりこの力は使いたくない。


 ────もう、思い出したくない過去もあるわけだし。







 私が祝福姫であることを思い出したのは、12年前────5歳のとき。


 私の髪と目の色が祝福姫の特徴と一致していることから、生まれてすぐに祝福姫なんじゃないかと噂はされていたらしい。だけど、そもそも私が前世の記憶を持っていなかったから、祝福姫かどうかは分からなかった。


 それを確かめるために、私はある手記を見せられた。


 それは、前世の私が、生まれ変わった時に記憶を思い出せるようにと、死ぬ直前に王家に預けていたものだった。


 その手記の中身を見た瞬間、こう、何かびびっときたのは確かで、実際記憶を取り戻して、今こうして祝福姫の生まれ変わりとして生きている。


 でも、正直言って、全てを思い出した感じはしない。何かもっと、大切なことを忘れているような気がする。


 私であって、私でない誰かが、何かを訴えかけてきている。


 私は未だに、それを思い出せずにいる。


 ◆◆◆◆


 ─────『私は、祝福姫だ。だが、それにしては私はあまりにも祝福を与えるような行いをしていない。それに、私は未だに、何か大切なものを思い出せずにいる。もしも来世の私がそれを思い出したとき、この手記に書いてほしい。次の私へと繋げるために。』

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