第3話 生きて
永遠の暗闇。出入口の分からぬ場所で、アリアリーナは開眼した。どうやら、地獄に来てしまったらしい。高貴なるツィンクラウン皇族を絶滅させ、愛する人を苦しめた罪は、やはり重かったようだ。
アリアリーナは、地獄をひとり
「お待ちなさいな」
アリアリーナは立ち上がり、振り返る。目前には、艶やかな黒髪を持つ美しい女が立っていた。クリムゾンの双眸がアリアリーナを捉えて離さない。不自然に赤い唇が緩慢に吊り上がる。
「あぁ、やっぱり……その瞳、綺麗ね。大丈夫、あとは私に任せてお眠りなさいな」
甘味のような甘い声が脳内に反響する。アリアリーナが感じたこともない恐怖を覚えた途端、暗闇に白金の光が射し込んだ。
「あ゛あ゛っ!!! 熱いっ!!! あ゛づい゛!!!!!」
女は顔面を手で覆いながら、絶叫する。そして
アリアリーナは一歩踏み出す。ぽちゃん。足元から水の音が聞こえる。足元を見遣ると、そこには浅い湖があった。その湖も、一面に広がっている。
地獄から一変、天国にでも逝けたのだろうか。そんなわけがない。自分に、そんな資格はない。アリアリーナが瞳を伏せた瞬間――。
「生きたいかい?」
すぐ傍、優しい声が聞こえる。アリアリーナはかぶりを振る。
「あんな思いをしてもなお、生きろと? 馬鹿馬鹿しい話だわ」
アリアリーナは最悪だった一生に、毒を吐いた。
生きたくなどない。もう、嫌だ。あんな一生を歩むくらいなら、ここで死にきったほうがずっと楽な気がする。
「アリアリーナ・コルデリア・リゼス・ツィンクラウン。偉大なるツィンクラウン初代皇帝の血を引き、今は失われた呪術師一族リンドル家初代当主の血を引く者よ」
アリアリーナは開眼しながら、面を上げる。目前には、青みがかった黒髪とシーブルーの眼を持つ美青年が立っていた。特徴的なローブを身に纏っていることから、魔法や呪術の類を扱う者だろう。
「もう一度、問おうか」
男の声が空間にこだまする。
何度問われても答えは同じだ。人間を狂わす絶世の美貌を持ち、呪術と暗殺の才を高めた
シーブルーの瞳が放つ眼光は、青白く美しい。自然と魅了されていく感覚に、アリアリーナは恐れを抱く。
「生きたいか?」
声に確かな芯がある。男の声に呼応して、心臓が
「運命に縛られ、
「何が、言いたいの……」
「いろいろ言いたいことはあるけど、時間がないから手短に言おう」
男は、微笑む。
「自分のために、生きろ」
たった一言。されど、一言。
アリアリーナの固く閉ざされた心の扉を
人は学ばない、
絶望を前にしても、生きたいと願うのだから。
死を経験しても、生きることを諦めないのだから。
アリアリーナの涙が全ての答えだった。男は
刹那――。
アリアリーナの世界は、暗転したのであった。
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