第2話 この身とあなたに別れを告げて
絶望。その一言が相応だった。
皇族を
ヴィルヘルムは今も変わらず、エナヴェリーナを愛している――。アリアリーナを愛することは、これまでも、今も、この先も、絶対にありえない。
「第四皇女殿下……。なぜ、あなたが、」
ヴィルヘルムの声が震えている。エナヴェリーナの名を呼んだ時よりも。エナヴェリーナの妹でもあるアリアリーナがなぜ彼女を殺すのか、とでも言いたげだが、アリアリーナの噂を知っているのであれば、少しは想像もできるだろう。それでも、ヴィルヘルムは
アリアリーナが美貌や体を使って、いくらアピールしても、ヴィルヘルムは決してなびかなかった。その度にアリアリーナは、社交界で笑いものにされていた。ヴィルヘルムに直接的に暴言を吐かれることはなかったとしても、迷惑がられていたのは事実。結局、アリアリーナと同様、彼を心から好いていたエナヴェリーナと結婚してしまったが。感情に任されるがまま、彼女を本気でこの手で殺そうと思った。しかし、結婚したタイミングで彼女を殺してしまえば、どんな理由であれ疑われるのは、アリアリーナだ。なんとか殺意を抑え込み、ほかの皇族を順番に始末した。好きでもない男、ツィンクラウンの南の領主と無理やり結婚させられそうになったとしても、最も
一族の悲願であり、アリアリーナの願いは果たされた。あとは目の前の男を、手に入れるだけ。
「無駄、だったのね」
人生は、全て、無駄だった。
「私が生きた人生も、この命も、ヴィルヘルム、あなたへの想いも無駄だった」
アリアリーナの脳内に、
(私は、あなたの本当の愛が、欲しかったの。
美貌が
走馬灯が終わりを告げたと同時に、オパールグリーンの瞳からひと粒の涙が溢れ落ちた。
エナヴェリーナを殺したのは、アリアリーナ。ヴィルヘルムは決して許してはくれないだろう。そんなこと、分かっていたはずなのに。
もう、良いのではないか。これ以上、生きていても意味はない。それに――。
「ツィンクラウン皇族は、私で最後」
アリアリーナは一言呟いた直後、王座から立ち上がる。一段、一段。今度は、下りていく。
アリアリーナはヴィルヘルムの前に、腰を下ろす。ふわりと舞う白銀のオーバースカート。彼女の
「《
美しい声で呪文を唱えたあと、ヴィルヘルムの頬に手を伸ばしその美貌に触れる。
「あなたは最後まで、憎たらしいくらいにかっこいいわ」
アリアリーナは、彼の後ろ、大きく開かれた扉のもとに何者かが立っている様を見た。ブルームーンストーン色の瞳が大きく見開かれる。アリアリーナは、ほくそ笑んだ。
自ら、呪術による死をもたらす。苦痛を
「愛してしまって、ごめんなさい」
この世に、これほど悲しい呟きがあるだろうか。
彼女の死後、
「アリアリーナ皇女殿下っ!!!」
ヴィルヘルムの目前で死した皇女の名を呼んだのは、彼女と婚約関係にあった南の領主であった気がする。ヴィルヘルムは呆然とする中、そんなことを考えていた。
次の瞬間、主を亡くした玉座に黒い
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