第1話 運命の手紙

───空が青くなり始めた頃。

新鮮で清らかな空気をめいいっぱい吸い込み大きく息を吐く。

水平線に目をやると新しい一日が始まろうとしていた。ライネルは日課の畑仕事の後、家に帰るとポストに1通の手紙が投函されていることに気が付いた。


ギィーと錆び付いた音を奏でるポストを閉め手紙を見る。

真っ赤な蝋印が押され、それ以外は至ってシンプルな手紙だった。この蝋印は何処の紋章だっただろうか。如何にも丈夫で高価な素材で作られていますよと言わんばかりの手紙からは微量の魔力を感じた。


「魔力……」


私は何故か本能的に蝋印に手をかざしてみた。


「わあ!?」


途端に手の中の手紙が目が覚めたかのように揺れ動き、素っ頓狂な声が出てしまう。やはり魔力に反応する特別な手紙だったみたいだ。

手紙は生き物のように、それはもう優雅な動きで封を開けていく。


中から1枚の紙がひらひらと舞いながら顔の前に出てきた。息を飲みこみ文字を読む。


そこにはたった1つの単語のみ。


「特別、入学招待状…?」


入学ということはどこかの学校から?それとも何かの勧誘?この7文字以外特に何も書かれていない。うんうんと唸っていると隣の窓が開いた。


「ライネル、家に入らないでどうしたの?あなたの好きなイチゴタルトが待ってるわよ」


「あっお母さん」


家に帰ってきたのに入る気配のない私を不思議に思ったお母さんが顔を覗かせてきた。


「なんか、不思議な手紙が入ってたの。宛先も書いてないし郵便屋さんが間違えたのかな」


「えぇ?」


そもそも誰から?そんな疑問があったが、漂ってきたとろけそうな甘い香りで今ほど頭の片隅に追いやってしまった。家に入り私は手紙を振ってお母さんに見せた。お母さんは怪訝そうな顔をしながらも手紙を受け取ってくれたのでそそくさとシンクへと向かう。


「ねぇ、ライネル」


「なにーー??」


私の動きが雑なせいか水滴が鏡に飛んでしまったが後で拭けばいいよね。

タルトが私を待っているんだ。


「ライネル、待ってこれ」


「待てない待てない…あっ、やっぱり間違いお手紙だった?」


鏡越しのお母さんの顔つきは初めて見る表情をしていた。心の奥底から安心したような。だが、どこか複雑そうな。


「違うわ、ライネルよく聞いて。これ、これね」


───この国一番の魔法学園からの招待状よ。


「まほう、がく、えん?」


鏡に写っていた私の顔はぐにゃりと歪んでいた。

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訳あり落ちこぼれ学生は世界平和を望みます 柳瀬 San @yanase03

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