第13話 恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を今度こそ子爵に出世させることにした

 コストナー子爵の逮捕はヘイズ王国の貴族に衝撃を与えた。


 コストナー子爵家は取り潰しとなり財産が没収されたのだが、驚くべきはその金額。コストナー子爵が違法カジノで稼いだ総額はヘイズ王国の年間国家予算の10%に相当する金額であった。

 もちろん、コストナー子爵家から没収した財産は、違法カジノの被害者の救済に充てられるのだが、全額ではない。違法カジノにのめり込んでお金を注ぎ込んだ罰則という側面もある。


 私とロベールはコストナー子爵の逮捕で手柄を立てたことによって、またヘイズ王に呼ばれた。

 今回のコストナー子爵の逮捕は、子爵家を一つ潰しただけでなく、ヘイズ王国の歳入としても貢献したはずだ。今回は期待してもいいのではないかと私は思っている。


 ちなみに、私が潜入捜査のために使った賭け金は警察から戻ってきた。違法カジノを出て直ぐにフィリップに回収を命じたのが功を奏した。結構な金額だったから、もしも回収できなかったらお父様にかなり怒られたはずだ。


***


 王との謁見の間に入った私とロベールは、ヘイズ王の前に跪(ひざまず)く。


「この度もご苦労であった」とヘイズ王は私とロベールに言った。


「有難きお言葉!」と私とロベールは返す。


「それにしても、コストナー子爵がこんなに貯めこんでいたとは……。違法カジノは儲かるのだな」

「今回、潜入捜査としてカジノの中に入りましたが、貴族も多く出入りしておりました。違法カジノの売上の大半は貴族でしょう」

「そうか……。そんなことのために爵位を与えているのではないのだがな……」


 私はピンときた。この流れだったらロベールを子爵にしてくれるのではないか?

 私はヘイズ王に訴えかける。


「爵位は正しい行いをするものに与えられるべきです。このロベールのように!」

 私はそう言って、ロベールの肩を持った。


「まぁ、そうじゃな。そうなんじゃが……」

「そうなんじゃが?」

「マーガレット、お主、カジノでイカサマせんかったか?」

「オホホホホー。何のことでしょう?」

「爵位は正しい行いをするものに与えられるべき……だな?」

「オホホホホー」

「まぁ、いい。今回は違法カジノを摘発するのが目的じゃったから、イカサマの件は不問にしよう」


 そんなこともより、ロベールが子爵になれるかどうかを確認しないといけない。


「ところで、ロベールはこの件で子爵になれますか?」

「……ないな。この前あと2件解決すれば、と言ったはずじゃ。あと1件必要じゃ」

「えぇ? コストナー子爵から没収した財産は相当な金額です」

「そうじゃな」

「貢献度を考えると、2件分に相当すると思うんですが……」

「そうしたいのはやまやまなんだが、文句をいう奴もおるからの」


――はぁぁぁ……


 今回はかなり期待していた私。ガッカリしたものの、あと一件でロベールは子爵。


 私がため息をつきながら謁見の間を後にしようとしたら、ヘイズ王は「待たれよ」と言った。



***



「ところで、今日そなた達を呼んだのは、その件ではないのだ」

「えぇ? 私はもう帰りますよ……」

「ちょっとだけ、ワシの話を聞かんか?」


 ヘイズ王はニコニコした顔をしている。


「それで、要件というのは?」

「マーガレットよ、今までの2件の功績を踏まえて不正を行う貴族の調査をしてみないか?」

「調査ですか?」

「そうじゃ。ヘイズ王国での汚職取り締まりの一環じゃ。ずいぶん前からヘイズ警察内に調査する部署を作ろうと思っておったのだ」

「はぁ?」


 このフリからすると、ヘイズ王は私にやらせようとしている。


――面倒くさいからやりたくない……


「マーガレットよ。調査を行う部署の責任者をやってみないか?」

「興味ありません!」


 私は即答した。今はロベールを出世させることが優先。それに、私が活躍してもしかたがない。


「そなた達にとっても、いい話だと思うのだが……」

「これがいい話ですか?」

「そうじゃ。その部署を立ち上げて、そなたらが調査をするじゃろ」

「はぁ……」

「なんと! 貴族の汚職事件を1件解決すれば、ロベールは子爵じゃ!」

「えぇ?」

「さらに! 3件解決すれば伯爵になれる」

「本当ですか?」


 私が興味を持ったから、ヘイズ王は経緯を話し始めた。


「以前からこの話はあったのだが、調査する人間はヘイズ王国の貴族を敵に回すことになるじゃろ。だから、誰も責任者になってくれんかった」

「まぁ、そうよね。誰もやりたがらないわね。私も嫌だわ」

「そなたが調査の部署の責任者になってくれたら、ワシとしてはありがたいのだが……」


「えぇ? 嫌ですよー」

「国家権力を使えるぞ!」

「でも、大変ですよね?」

「ヘイズ王国として全面的にそなたをバックアップする!」


「うーん、どうしようかな。私は学生だし……」

「放課後だけで大丈夫じゃ!」


「ロベールと離れるのはちょっと……」

「ロベールも参加させる!」

「それは、ロベールが決めることじゃ?」


 ヘイズ王はロベールの顔を正面から見た。


「ロベール、マーガレットを手伝ってくれるな?」

「え? 僕ですか?」

「王命じゃ!」

「承知しました……」


 小心者のロベールは王命に逆らえない。ヘイズ王はますます勢いづいていく。


「ほら、ロベールも参加するぞ! ほれほれ!」

「他には……」

「断る理由はないじゃろ?」

「ぐぬぬぅぅぅ……」


 私はヘイズ王がなぜこの部署を立ち上げようとしているかを理解した。ただ、ロベールの意向を無視して勝手に決めるのも気が引ける。私は返答を後日にすることにした。


「ちょっと考えさせてもらっても?」

「もちろんじゃ!」

「返答の期日はいつですか?」

「1週間、というのはどうじゃ?」

「承知しました」


 私とロベールは謁見の間を後にした。


***


 帰り道、私はロベールと歩いている。手をつないで。


「ねえ、ロベールはどう思う?」

「僕はいいと思うよ」

「いいってどういう意味?」

「ヘイズ王国の国民を助けることになるし、誰かがやらないといけないことだろ?」

「まあ、そうね」


 ロベールはヘイズ王の提案に肯定的なようだ。


「ロベール、手伝ってくれる?」

「もちろん!」

「私が危険な目にあったら、守ってくれる?」

「もちろん!」


 私はロベールの目を見て尋ねる。


「ロベール、ずっと一緒にいてくれる?」

「もちろん!」


――これって……実質的にプロポーズ……


 私は決心した。


 こうして、


 恋をした公爵令嬢ロベール貧乏男爵子爵に出世させることにした



<おわり>


この物語は『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させることにした』に続きます(いま書いています)。


もし、ロベールが次作で子爵になれない場合は、『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させることにした』に続きます。


それでもロベールが子爵になれない場合は、『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させることにした』に続きます。


それでもロベールが子爵になれない場合は、『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させることにした』に続きます。


<以下略>


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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