第11話 違法カジノを調査しろ
屋敷に戻った私は、フィリップに違法カジノの運営に関わっている子爵家を調べるように指示した。フィリップは数時間で情報を入手してきた。
違法カジノを運営しているのは、領地で大規模な農場を営んでいるコストナー子爵家。フィリップの情報では、コストナー子爵は繁華街のビルをいくつか所有しており、そこで違法カジノを運営しているようだ。
ヘイズ王国では国営カジノのみが認められており、民間がカジノを運営することは違法だ。ただ、国営カジノが扱っている賭博は射幸性(ギャンブル性)が低く、勝負師やギャンブル中毒者からは不評である。
この点、コストナー子爵が運営しているカジノは、短時間で勝負がつく賭博が多く、掛け率が高いから射幸性(ギャンブル性)が高い。だから、カジノの客は大きく勝つか、大きく負けるかのどちらか。
とはいえ、ほとんどの客は負けるのだが……
***
フィリップの情報では、コストナー子爵の経営するカジノは、名義上は別人が経営するカジノとなっている。コストナー子爵に雇われたお飾りの代表者だ。
もし警察に違法カジノが摘発されたとしても、逮捕されるのは雇われ代表者。その後、コストナー子爵は新たにお飾りの代表者を雇って、別の場所で違法カジノを始める。
つまり、私たちが警察引き連れて違法カジノに乗り込んでも、雇われ代表者のトカゲの尻尾切りが起こるだけ。コストナー子爵を逮捕することはできない。
――コストナー子爵を逮捕するためには……
このカジノの経営スタイルでコストナー子爵が出てくる状況を私は考える。
もし、違法カジノが大損害を受ければコストナー子爵は出てくるのではないか?
違法カジノにある現金が底をつくと顧客への支払ができなくなる。そうしたら、コストナー子爵はカジノの現金を補填するためにやって来るだろう。
そうすると、私たちの採るべき作戦は、カジノに客として潜入し、勝って勝って勝ちまくることだ。現金が底をつくまでカジノに大損害を出させれば、コストナー子爵はやってくる。
そのためには手段を選んではいけない。イカサマしても勝てばいいのだ。
私はフィリップからありとあらゆるイカサマを教えてもらった。ただ、私が相手にするのは熟練のプロのディーラーだ。たとえ私のイカサマのテクニックが向上しても、プロのディーラーを相手にどこまで通用するかは分からない。
だから、私はカジノのディーラーを買収した。ちょうど、借金で困っているディーラーがいたから、そのディーラーに私のイカサマを手伝ってもらうことにした。
ちなみに、今回の違法カジノの潜入では、私とロベールは変装して忍び込もうと考えている。
カジノの中には私の顔を知っている者がいるかもしれない。
その者がシュミット子爵の逮捕のことを知っているかもしれない。
もしくは、「未成年はカジノに入ってはいけない」と言われて追い出されるかもしれない。
だから、今回は変装して違法カジノに潜入することにしたのだ。
美しい私の美貌を披露できないのは不本意ではあるのだが……
***
違法カジノ攻略の準備が整った後、私は今回の経緯と作戦を説明するために、ロベールを屋敷に呼んだ。
「……というわけなの」と私はブラン子爵家(カトリーヌの家)に起こった出来事をロベールに説明した。
「それにしても、悪い貴族は多いんだね」
「特権階級だからちょっとくらい悪いことしても何とかなると思っているのよ」
「僕は貧乏男爵家で良かったと思ってるよ。お金に執着しなくていいし」
「なにを今さら……ロベールは私と婚約するために伯爵まで出世するのよ!」
「えっ? 伯爵? 子爵を飛び越えて伯爵なの?」
「そうよ。前に言ったでしょ? あなたは公爵令嬢と婚約するの。伯爵じゃないと文句を言う奴がいるのよ」
ロベールは「伯爵か……」と言ってから黙ってしまった。私はしかたなく話題を変えた。
「……というわけで、今回はコストナー子爵が経営する違法カジノに乗り込むわ」
「違法カジノだったら、前回の違法薬物よりは安全かな?」
ロベールは呑気なことを言っている。今回の作戦では、武力行使はしないものの金は使う。
ウィリアムズ公爵家に資金は潤沢にあるのだが、作戦に失敗すると大きな損失が出る。命の危険はないものの、お父様に怒られるかもしれない……
ロベールはあまりお金に興味はないのだが、危機感は共有しておきたい。
「ある意味では前回よりも危険よ!」
「そうなの?」
「カジノで大負けしたら……」
「どうなるの?」
「当分、お小遣いゼロね。欲しい洋服も宝石も何も買えない……」
「そっち?」
「そう、とても重要なことよ」
「お金は必要なのは分かるよ。でも、豪華な洋服や宝石はなくても幸せに暮らせるよ」
「本当に?」
「本当だよ」
私はロベールを見つめる。私は引き寄せられるようにロベールに近づいていく。
緊張して動けないロベールに近づく私。その距離20センチ。
あと一歩踏み出せば、ロベールと私の唇が重なる………
その瞬間、
「お嬢様、お茶が入りました!」
ミシェルが笑顔で入ってきた。
――いいところだったのに……
また邪魔された。わざとじゃないか?
あのニヤニヤした顔が怪しいし、ミシェルならやりかねない……
そんな疑惑を知らないミシェルは、2人分の紅茶をテーブルに置いて去っていった。
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