第5章
第35話
累に嫌がらせをした人物の特定は、すぐにできた。
月日が告白を断るようになった時期と累が会計になった時期が重なったことから、月日の対応が変わった原因は累にある。嫌がらせした彼女たちは、そんなふうに逆恨みしたのだ。
山田累――みんなの王子様を独占する、悪い魔女。
彼女たちからは、累は悪女オブ悪女として見えていたことだろう。
だが、嫌がらせをするような人間が、物語のヒロインになりうるわけがない。
もちろん、ヒーローもしかり。
彼女たちは、自分たちがモブ1、2、3であることにすら気づかない哀れな人種だ。モブはモブと切り捨てるのもいいが、月日は彼女たちを彼なりに懲らしめることにした。
月日は悪役にむいていない。
好きな人に恋い焦がれる気持ちだって、よくわかる。
そんな月日にできる、唯一ともいえる方法――。
その日の早朝、月日はいつも以上に念入りに王子様オーラで武装し、累に害をなす悪役モブ上級生たちのクラスに単身突入した。
「――すみません、小松原さんってこのクラスにいませんか?」
全力王子様のあまりのオーラのすごさに、月日の姿を見ただけで三人倒れた。さらに声を聞いて五人が意識を飛ばした。
騒然とした教室内で、名前を呼ばれた小松原八重子が、全身を震わせながら立ち上がる。
(あら。ワタシの本気に面と向かって立っていられるのね)
震えてはいたものの、八重子は一歩前に踏み出す。
(歩けるのね。ならば……)
すでに八重子以外の女子たちは、椅子に座ったまま腰を抜かしているか、地面に倒れこむかだ。
「あなたが、小松原先輩ですね?」
とっておきの
瞬間、八重子は鼻血を噴き出して倒れた――白目をむいて。
「あれ、先輩と話をしたかったのに……仕方ないですね。出直します」
次の休み時間、そしてその次、そして昼休み。月日は上級生の教室に『ちょっとお話がある』という名目で通い詰めた。
今度こそ倒れまいと頑張る女子たちの決意もむなしく、鼻血噴出続出、気絶者複数で保健室はすぐさま満杯になる。
負傷者たちが詰め込まれた保健室にまで月日は顔を出し、悲鳴と失神者を増やしたところで、保険医の先生に怒られた。
「ちょっと十条くん、なにしてるのよっ!」
そういう先生も、月日の顔面を直視して鼻血が出たため、鼻に詰め物をしている。
「なにって先生、俺はただ小松原先輩と話そうとしているだけで……」
「オーラをしまいなさい! 笑顔禁止よ!」
先生は月日対策のために用意した色味の強いサングラスをかけると、しっしっと追い払う仕草をする。
「ひどいなぁ、先生……」
先生の手を握り締め、間合いに入る。
彼女は目をつぶっていたためなんとか耐えたが、その様子を見ていた保健室にいた意識のあった生徒たちは、完全に意識を失って沈黙した。
月日は王子様モードを弱めてからポリポリと頬を掻く。
「やりすぎちゃったかな?」
後ろを振り返った保険医の先生は、別の意味で悲鳴を上げた。
「十条くん、私の仕事を増やさないでちょうだいっ!」
しばらく保健室には立ち入り禁止だと追い出されてしまう。
ピシャンと扉を閉められ、さらに施錠される。しかし保健室の前には、月日の笑顔によって負傷した、上級生の男子生徒たちも鼻血まみれで列をなしていた。
「みなさん、なんだか俺のせいでごめんなさい」
申し訳なさそうに謝り、そして彼らにはきゅるるん
――その場にいた全員が、ぶっ倒れた。
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