第25話

 頭を整理する必要がある。

 そう考えた月日は、生徒会室でぼっちめしすることにした。

 今朝立てた『自分は累のことが好きかもしれない』という仮説について、じっくり胸の中で落とし込む必要がある。

 もしかすると、検証と証明までしないといけない。


(ワタシが累のこと好きになる……今まで考えもしなかったわ)


 ずっとこの胸のもやもやは、累に好かれていることに対するものだと思っていた。

 まさか、逆かもしれないだなんて――……。

 誰もいない生徒会室で携帯電話を取り出すと、フォルダーにまとめてある、とびっきり可愛いはるるんの写真を見た。


「ああ、落ち着く……なんて可愛いのかしら、はるるん」


 月日が思うかわいい女の子代表のはるるんと、累は似ても似つかない。

 そもそも、はるるんは小柄な小動物系女子だが、累はモデルのように高身長でスレンダー。

 はるるんは茶髪のくせっけでふわふわ系だが、累は黒髪のストレートだ。


「そうよ、そう。ワタシの思い違いよね、きっと。だってタイプが全然ちがうもの!」

「…………なにを一人で、叫んでいるんですか?」

「きゃあああああああああああああああっ!」


 突然、声をかけられて月日は盛大に悲鳴を上げた。

 それに累はあきれたを通り越して、半眼で月日をにらむ。


「先輩、私ですから」

「るるるるるるるる累! いつからいたのよっ! いたなら声かけてよっ! いきなり驚くじゃないのっ!」

「今来たから声かけたんです」


 累は生徒会室に入ってくると、鞄を机に置いた。


「人の顔見て悲鳴出す癖、直んないんですかね」


 オバケじゃないのに、と累は迷惑そうだ。彼女の足元に違和感を覚えて、月日は累の靴を見た。


「累、上履きはどうしたの?」


 訊ねられた累は「ああ」と言いながら椅子に腰をおろす。


「なくなっていました。どこかから出てくるでしょう、そのうち」


 月日は嫌な予感がした。


「……まさか、誰かに?」

「さあ。でも、靴箱にしまい忘れた覚えはないです。上履きが勝手に歩いていったのなら別ですけど」

「もしかしてイジメなんじゃ……?」


 月日は慌てて累に駆け寄った。

 累はどこ吹く風でお弁当箱を取り出し、ご飯を食べようとしている。隣に座って、月日は累を覗き込む。


「累ってば」

「どうなんですかね。今どき上履きを持っていくのとか、幼稚すぎません?」

「笑えないわよっ!」


 月日は累の腕を掴んだ。掴まれた累は、驚いて目を見開く。


「いつからなの、他になにかされてない? もしかしてワタシのせい……?」

「先輩、痛いです」


 力強く累の腕を掴んでいることに気づき、月日はパッと手を放す。


「きゃあ! ごめんなさい! つい……」


 累は一瞬だけ困ったような顔をしたが、月日の表情を見ると口を開いた。


「最近ですね、上履きがちょこちょこなくなるのは。机の中にいれっぱなしにしていた教科書に落書きされていたので、それ以来ロッカーに入れています」

「生徒会に入ってから……やっぱり、ワタシと一緒にいるから……!?」

「あ、そうか。上履きもロッカーに入れればいいんだ」


 累は思いついた、とポンと手を打つと、嬉しそうに弁当を食べ始める。困っているけれど、それほどではないし気にしていない様子だ。


「……累、あなた大丈夫なの?」

「先輩も食べないと、休み時間終わっちゃいますよ?」


 月日はあきれてため息を吐いた。月日は今度は優しく、累の手に自分の手を重ねた。


「あのね、累。ワタシは、ワタシと一緒にいることで、あなたが嫌な思いをしているんじゃないか心配なの」


 照り焼きチキンを飲み込むと、累は頷いた。


「心配していただき、ありがとうございます。でも、嫌な思いはしていません。していたら、こうして生徒会室にお菓子をもらいに来ません」

「でも、上履きや落書きの件は」

「十条先輩がやったわけじゃないでしょ?」


 累は「麦茶をください」と月日に要求する。

 月日が麦茶を手渡すと、累はそれを気持ちよく飲み干した。

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