第24話



 *



 最近、月日は累をよく見かける。

 廊下ですれ違うこともあれば、遠くに歩いている姿も視界に入る。食堂でも、遠くにいるのにもかかわらず、累を見つけることが増えていた。


「ねー大輔。累って結構俺の前に現れるよね」

「は? 累ちゃんがどこにいるって?」

「わかんないの? あっちの奥に座っているぞ」


 大輔は月日の視線の先を追う。彼女は食堂の窓際の席で、おしゃべりそうなクラスメイトと一緒に座っていた。


「……よくあれが累ちゃんだってわかったな」

「累は目立つからね」

「目立つぅ!?」


 大輔は口に入れかけていたエビフライを落としそうになった。


「なんだよ、素っ頓狂な声出して」

「おいおいおいおい。月日。きれいな顔立ちだけど、累ちゃんはめっちゃ地味だぞ!」


 あまりにも切実な様子で言われて、月日は首をかしげた。


「雰囲気も制服の着こなしも派手じゃない。立っていれば、身長が高いから見つけやすいかもだけど……」


 というか、と大輔は眉根を寄せた。


「累ちゃんと一緒にいる子のほうが、どちらかといえば目立つぞ」


 月日は再度、累のほうへ目を向ける。

 彼女の手前に座るクラスメイトは、いわゆる今風の顔立ちで、特出したものがあるわけではないため見分けがつかない。


「うそ。そんなことないよ」


 大輔に地味と断言された累のほうが、明らかに目立っている。

 黒い長い髪の毛も凛としたクールな顔立ちも、他の子と違って見えた。


「累のほうがかわいいよ。あの子、笑うとえくぼができるんだ」

「……お前ほんとアホな。いい加減にぶすぎ」

「はあ!?」


 突然ののしられて、月日は眉根を寄せた。


「まあいいから、飯食うぞ」


 大輔はあきれた顔のままエビフライを頬張る。月日は納得いかなかったのだが、黙ってチャーハンを口に入れた。


(大輔が間違っているわよ。累は目立つもの)


 午後は移動教室で、累の教室の前を通る。すると、廊下にいる彼女を見かけたし、翌日の朝も遠くを歩く累の後姿を見つける。


(ほら、累は目立つから、いつだって見つけられるじゃない)


 教室に向かう途中で、窓から身を乗り出している女子生徒たちの声が耳に届いた。


「あ、ヒロくんがいる!」

「彼氏?」

「うん、そう。ほらあそこ!」


 女子生徒は指を差して嬉しそうにする。彼女の指先を追った隣の女子は、「見えないよ」と不満を漏らした。


「ほんとヒロくんのこと好きだね。こんなに人がいっぱいいるのに、あんな地味彼を見つけられるとかすごいよ」

「ちょっとちょっと、ヒロくんは地味じゃないし!」

「どう見たって地味でしょ。私にはみんな同じ顔にしか思えないよ」


 言われて彼氏持ちの子が反論した。


「好きだから、どこにいても目立って見えるし、すぐ見つけられちゃうんだよね」

「ある意味天才~!」

「あー! わたしのことバカにしたなぁ!」


 話を聞いていた月日は、思わず「え!?」と声を出してしまっていた。

 月日の声に、彼女たちは驚いて振り返る。そしてそこで目を見開いていた月日を目撃し、驚くと同時に悲鳴を上げた。

 騒然としてしまったため、月日は王子様スマイルで彼女たちを卒倒させたあと、そそくさとその場から退散する。

 教室には向かわず、踊り場の階段の後ろに隠れてしゃがみ込んだ。


「……好きだから、目立つし、すぐに見つけられる?」


 大輔が累は地味だと言っていた。

 見つけられるのはすごいことだと、月日に驚いていた。


「好きだから?」


 そして、今の女子生徒たちの言葉が月日の中でこだまする。


「うそ……まさかワタシ」


 先ほどの女の子たちも、大輔と同じことを言っていたはずだ。

 ――いくら地味でも、好きなら見つけられると。


「最近なんだか胸がおかしいのって、ワタシが累に恋しているからなの!?」


 うそだ、と何度もつぶやいて頭を横に振るが、累の笑顔が脳内から消えることはない。

 むしろ、否定しようとすればするほど、沼にはまっていく気がする。


「まさか。累のことが、好き……? 累がワタシを好きなんじゃなくて、ワタシのほうがあの子を好きってことなのっ!?」


 発火するかと思うほど身体が熱くなってしまい、月日はしばらくそこから動けなくなった。

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