第23話
その日の月日は、少し物憂げだ。窓の外を見てはため息を吐き、歩く時もどこかぼうっとしてしまっている。
新生徒会が始まって、一週間経った。
いまだに書記係が決まらないのも悩みではあるのだが、それだけが気持ちを暗鬱とさせているわけではない。
月日は、毎日おぼろげな雰囲気をかもしだしている。
もちろん、悩みの種は累についてだ。
ハンバーグを作っている最中、累は好きな人の存在をにおわせた。
(胸が痛いのよね。累がワタシのこと好きかもしれないって、知っちゃったから……)
そんなダダ洩れの月日の色気に、やられる生徒は後を絶たなかった。
「はああああああああああああ」
意図せず出てしまった大きなため息に、月日はハッとして辺りを見渡す。
幸いにも授業前の教室内はざわついており、月日の憂鬱そうなため息に気付いたクラスメイトはいなかったようだ。
それに安堵しながら校庭を見ると、グラウンドにいる累の姿が見えた。
(あ……累だわ)
体育なのか、体操着に着替えて、ストレッチをしながら教師を待っている。
ほかの女子生徒たちよりも頭一つ分だけ身長が大きいので、すぐに彼女だとわかった。
すらりと伸びた体躯は、あんなに大食いをするようには見えない。
(あんなに細くて、あんなに食べるなんて。胃がちょっとレベル違いね)
そんなことを思っていると、二分遅刻して教師が入ってくる。
「すまん遅れた。始めるぞー」
やる気のない声とともに入室したのは数学の「セイメイ」だ。
暑いのかクールビズを先取りしてか、ネクタイを少し緩めている。
授業は粛々と進められていく。黒板に書かれた数字を目で追い、いくつかの問題を解く時間が設けられていた。
あっという間にそれを解いてしまった月日は、校庭から聞こえてくる声に思わず視線を向けた。
四百メートル走をしているらしく、頑張れー! と言う応援が響いてくる。
(累も走ってる……見るからにダルそうね)
「よし余裕ぶっこいてる十条。黒板の問題、全部頼むぞ」
彼女の姿にニコニコ微笑んでしまい、それを目撃したセイメイに当てられてしまった。
「え、あ……はい」
立ち上がって黒板に向かい、数式を解きながらちらりとセイメイの様子を探る。
怒っている様子はなく、彼もぼうっとしながら校庭を見ている。月日の視線に気づくと、「ん? わからない?」と親切にヒントを教えてくれようとする。
「わかります。大丈夫です」
「そお? じゃ頼むわ」
月日はすべて正解で解き終わって、席に戻る。
セイメイが黒板に向き直った瞬間、もう一度校庭を見る。累は芝生に座りつつ、走っているクラスメイトを応援しているようだ。
(ああ、あんなにじっとして……きっとお腹が空いたのね)
放課後、累に会えるのを楽しみにしながら、月日はニコニコとシャープペンを走らせた。
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