第13話
「これじゃ毎日バレンタインですね。食べきれるんですか?」
「まさか。俺も分けてもらっているくらいだよ」
大輔もおこぼれにあずかっていると知っている女子たちは、下心も込みで大輔の分まで提供してくれることもある。
「食べきれない分は、捨てちゃうんですか?」
「そんなことできないわ! 時間をかけて、ワタシのために用意してくれたから」
間髪入れず、月日が首を横に振った。
「無駄にならないよう、極力努力しているのよ」
ふうん、とお菓子の山を見つめる累にむかって、大輔が口を開いた。
「累ちゃんも食べる?」
大輔の一言に、累の瞳が今まで見たことがないほどきらめいた。
「食べたいもの持って帰って食べていいよ。その方が助かるし、生徒会の皆さんへって書かれているのが大半だから。な、月日?」
「え、ええ、まあ……」
「――いいんですか!?」
累が初めて喜びの声を上げたので、月日は言葉を切る。
彼女を見ると、すでにお菓子の山に近づき、美味しそうなものを吟味している。
「あ、やっぱりそっちのほうが美味しそう。こっちもなかなか、いい焼き具合っぽい」
真剣に選び始める累の様子に、大輔はふふふと笑った。
「俺、月日よりお菓子に興味を持った女子を、初めて見た」
「累が、嬉しそうにしてる……ワタシと話していても不機嫌なのに、お菓子に笑いかけてる!?」
持ち帰れないほど大量になってしまうと、累はカバンからエコバッグを取り出して詰め込み始めた。
「お二人とも、ありがとうございます」
累は心なしか、来た時よりも数倍期限がいいようだ。
「いえいえ。いいんだよ。でもその量を一人で食べるの?」
「ちょっと累、そんなに食べたら身体に毒よ!?」
エコバッグを大事そうに抱える累を、月日は止めにかかった。
「これくらいカロリーゼロに近いです。助かります、食費が浮くし……」
「食費?」
「両親が海外赴任してて、たまに兄が帰ってくるんですが、実質一人暮らしです」
大輔は累の言葉を聞くなり、ニヤッと笑った。
「生徒会に入れば、時々おいしいものを食べられるよ?」
「……といいますと?」
「生徒会の皆さんへという名目で、月日への贈り物が増えると俺は予想している。もちろん、全部を食べきるのは無理だとも」
ここまでの量が毎日贈られることはないが、それでも贈り物がなくなることはない。
「禁止にすればいいのでは?」
「みんなにはそう言ってる。でも、それでもと言って押し付けられたら、月日は断れない」
これは、押しの弱い月日が招いてしまったことだ。
「さっき俺も確認したけれど、月日もこのままじゃだめだっていう自覚はあるから」
「それまでは黙認するってことですね」
「そういうこと。生徒会の皆さんへってことだから、累ちゃんが入ってくれたら食べても文句言われないよ」
累は一瞬考えたあと、腹をくくったようだ。
「等価交換ですね。ちなみに、会計係の内容をお聞きしてもいいですか?」
「そう来なくっちゃ!」
大輔は過去の会計が残していったノートを取り出し、ざっくり内容を伝える。そんな累を見つめながら、月日は胸の内に複雑な感情が渦巻くのを感じていた。
「これなら……私でもできそうです」
「学内行事の前はやること多いけど、無理にはしなくていいし」
累はさらに細かく会計の仕事を大輔に聞き、会計のノートを再度確認したあと首を縦に振った。
「わかりました。会計係をさせてください」
「やった!」
大輔がガッツポーズし、累の手を握った。
「これからよろしくね、累ちゃん」
「よろしくお願いします、白川先輩」
月日は口をあんぐりと開けながら二人のやり取りを見守っていたのだが、ワンテンポ遅れて狼狽えた。
「えええええええええ!」
累は途端に不機嫌そうに眉根を寄せて、月日に向きなおる。
「十条先輩は、その大声をなんとか――」
「むむむ無理よ、無理! 累と一緒だなんて恥ずかしいわよ!」
「私は恥ずかしくないので、普通にしてくれていてかまいません」
「あわわわわ……」
もはや泡になりかけている月日と大輔に向かって、累はペコっとお辞儀をした。
「明日からよろしく、累ちゃん」
累は顔を上げると、ほんのちょっとだけ微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます