第12話
「お疲れ、二人とも」
「十条先輩、間違っていますよ。連れてきたんじゃなくて連行ですよね、連行。しかも生徒会の権限とか、わけわかんないことを言って」
半眼で月日をにらみつけながら、累は二度目となる生徒会室に渋々入ってくる。
「もうちょっと、まともな嘘とかつけないんですか?」
「うっ……ごめん。でも、話があるっていうのはほんとだから」
ね、と大輔と助けを求めると、大輔はニヤニヤしながら累に席に座るよう促す。
「こんにちは、山田累ちゃん。初めまして、僕は白川大輔って言います。月日の幼馴染で、今は副会長で、まあ、月日のことは色々と知っているよ」
「……はあ、そうですか」
累のクールな返しに、大輔はちょっと驚いたようだ。
「でしたら白川先輩。いい迷惑なので、十条先輩を止めて下さい」
「ん? どうゆうこと?」
大輔は思い切り首をかしげる。
「私は十条先輩のことを言いふらす気はないですし、顔見るたびに叫ばれて、けっこう迷惑なんですけど」
どうやら累は、月日の秘密を言わないよう、口止めされるために呼ばれたと思っているようだ。
「な、な、それは累がいつもいきなり目の前にいるからで……」
「いたからって、悲鳴を上げますか、普通?」
「驚いたからだってば!」
「生徒なんですから、校舎内にいるのは当たり前です」
累の淡々とした主張を聞いていた大輔が、けらけら笑いだした。一通り笑いが収まると、累はムッとした。
「言いふらさないっていってるのに、信じてくれないところが迷惑してるんです」
月日は累に近づいた。
「だって信じられる!? 累はワタシのことよく知らないでしょう!?」
つい素の口調になってしまってハッとしたが、累は月日をまっすぐ見つめてきた。
「お互い様です。では、知っていたら信用できるんですか?」
それはそうよ、と月日が言うと、累は眉を吊り上げた。
「よく知っている人のほうが信用できるんだったら、先輩のファンのほうが、あなたの本性を知っても理解して信用くれるっていうことになりますよ?」
言われて月日は、たしかにと唸ってしまった。
「だったらなおさら、隠す必要はないですよね?」
月日は自分が論破されそうになって内心驚いていた。がしかし、累の意見は正しい。
知っている人なら信用できるというのなら、本性を隠す必要なんてこれっぽっちもないはずなのだ、本当は。
「そんなに隠すことですか?」
とどめを刺すように、累が月日をじいっと射貫く。
「こんな性格を知られたら――」
幾度となく言われた「月日くんって変なの」という言葉が、月日の胸の中に刺さって抜けていない。
でも、月日は知っている。
自分に蓋をさせている周りじゃなく、それを容認してしまった自分が、一番まずいということに。
「……先輩がどんな人でも、先輩は先輩ですし、先輩以外の何物でもないです」
「そういってくれるのは、ごくごく一部よ。ワタシがこうだって知ったら、みんなおかしいっていうのが目に見えているもの」
「でも、私の前では隠さなくていいです」
いつの間にうつむいてしまっていた月日は、顔を上げて累を見た。
月日は感動した。こんなにあっさり自分のことを受け入れてくれる人が現れるとは思ってもいなかった。
「累、あなた……」
しかし、感動した気持ちは、累の次の言葉によってしゅるるんと消え去った。
「――私は先輩にそれほど興味ないんで」
「きっ、興味ない……!?」
「はい。心配しなくて大丈夫です、先輩のこと好きじゃないですし」
累のあまりの切れ味のよい言葉に、ずっと黙って聞いていた大輔がこらえきれずに「ぶはっ」と笑った。
月日は困惑し、わなわなと震え始める身体を自ら抱きしめるしかできない。
出されていたコーヒーを飲み干すと、累はさっと立ち上がる。
「話がそれだけなら帰ります。十条先輩にかまっていられるほど、私も暇じゃないので」
「な、なによそんな言いかたしなくてもっ!」
「口止めしようとか、そんなことで引きとめるほうがよっぽど失礼です」
累は月日に有無を言わせない視線を送ってきた。返事ができないでいると、大輔がポンと手をたたく。
「ごめんね累ちゃん。引きとめたのはそのことじゃないんだ」
「そうなんですか? では要件を教えてください」
「累ちゃんは、生徒会の会計係に興味ない?」
「はい?」
訳がわからないというように、累が眉をひそめる。
「これ見てくれる?」
先ほど仕分けした、月日に贈られたプレゼントの山を大輔が差し示す。
机の上いっぱいの量に、累は目をまん丸く見開いた。
「つまり、君くらい月日に興味がない人じゃないと、生徒会が成り立たないんだよね」
困っているんだよと大輔は肩をすくめてみせる。
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