第11話
月日が生徒会長に就任して数日。
生徒会室は、就任祝いの贈り物の山でいっぱいになってしまっていた。
「……月日。これ、一体どうするんだよ」
あまりの量の多さに大輔は眉間のしわが深くなる。対する月日も困った顔で、両手で口元を押さえていた。
花束数十個、手作り焼き菓子に、デパートで購入したような贈答品、タオルやハンカチ、ハンドクリームや入浴剤まで様々。
まるで今からプレゼントを配りに行く、サンタクロースのような状態だ。
「だって、無下に断れなくて……せっかくワタシのこと応援してくれたのに……」
「そうだけどさ、限度があるだろ、限度が!」
大輔が怒るのも無理はない。
普段から月日が贈り物を断らないため、イベントになるといつも持て余してしまうのだ。
「だって、でも、ほら。みんなこうやって頑張って作ってくれて、一生懸命にお手紙書いてくれているのに……」
自分を大事にしてくれる人を、ないがしろにすべきではない。月日は長年はるるんのファンをしているから、彼女たちの気持ちを重々わかっていた。
なので、月日はこうして贈り物も告白も断ることができないでいる。
「お前がいつまでたってもそれだから、事態が悪化すんだろ?」
会長に就任して以来、月日の取り巻きたちは少々過激化している。
取り巻きに派閥がいくつもあることは承知しており、序列があるというのも聞いている。告白や贈り物にも、派閥内で謎のルールがあるそうだ。
止めようにも機会を失ってしまっているし、いまさら取り巻きたちを止められないのが事実だった。
大輔は舌打ちする。
「時には悪役になったほうがいい時だってある。今を逃したら、この先もずっとお前は王子様のままだ。それでいいのかよ?」
「ダメなのはわかってるわよ」
いっそ、性格が悪くなれたらよかったのに、元が悪い人間ではないため悪役にもなれない。月日の苦しみは、人気者の立場にならなければわからないものだ。
でも、中途半端なのは、月日が一番よくわかっていた。
「ちゃんと自分でどうにかするわ」
「当たり前だ」
大輔はポリポリ頭を掻きながら、窓の外を見て「おっ」と小さく声を上げた。
「なぁに、どうしたの?」
月日が尋ねると、大輔はニヤリと笑う。
「――累ちゃん、自転車なんだな」
「ふぇっ!?」
大輔が指さしたほうを見れば、まっすぐ駐輪場に向かっていく累の姿が見えた。
「あ、あれ、累……!?」
月日は胸がザワザワして、口をパクパクさせる。
「月日、外に出て深呼吸してこい。それと、累ちゃん捕まえてきて。話したいことあるから」
「なんでよ!? 大輔が行きなさいよ」
「あーあー、急がないと累ちゃん帰っちゃう~。俺は今手が離せない~」
大輔はそそくさと贈り物の山を分別し始める。月日はそんな彼と窓の外の累を交互に見て、ぷくっと頬を膨らました。
「んもー! 行けばいいんでしょ、行けば!」
「おう。今日話したいから、絶対累ちゃん逃がすなよ」
月日は大慌てで生徒会室を後にした。
「大輔ったら、自分で行けばいいのにっ!」
なぜ自分の頬が熱くなっているのかわかっていない月日は、駐輪場に向かう累を視界に入れるなり声をかけた。
「累!」
呼ばれると、長い黒髪を揺らしながら累が振り返った。
「こんにちは、十条先輩。さようなら」
淡々と帰る宣言をされて、月日は並外れた身体能力で、累の前に回り込んだ。
「ちょぉーっと待ってー!」
自転車に手を伸ばしている累を止めようとすると、明らかに嫌そうな顔をされた。
「ここで聞きますけど」
「ワタ……俺じゃなくて、大輔が君に話があるんだ。手が離せないから、代わりに呼びにきたんだけど」
「……」
ついていくもんかというような雰囲気を出されてしまい、月日はうっと声を詰まらせた。
「だから、副会長の権限みたいなやつで、呼ばれたら生徒会室に行かなくっちゃだから!」
一瞬いぶかしんだ様子だが、累は自転車から手を放す。
「手短にお願いします」
「それは、大輔に言ってほしい」
行こう、と累に手を伸ばしてエスコートしようとしたが、寸前でやめた。
きっと、ほかのみんなが喜んでくれるようなエスコートは、累はうれしくないだろう。彼女に嫌な顔をされるのは、地味に心が痛い。
「……ついてきて」
「はい」
無事に累を案内できたことに安堵しながら、生徒会室の扉を開けると、中で大輔がコーヒーを淹れていた。
「大輔。累を連れてきたよ」
ドッドッと脈打つ心臓の音は、大輔には聞こえていないだろう。ふてくされながら言うと、大輔はニヤッと笑った。
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