第10話 死にキャラの学園生活

 激動の入学式から一夜明け、時は四月初旬。ラドクロスバースの第一章のクライマックスまであと三週間といったところだ。

 ゲームではここから本格的に学園生活が始まるのだが……


「シラユキ」

【なんだ】

「一之宮ハルキってやつ、殺していい?」


 俺は今、女子にとり囲まれている主人公君に嫉妬を抱いていた。


 というのも、生徒会の情報操作により先日の襲撃事件でトラを撃退したのはハルキということになっているからである。


 これはマリアさんが俺に気を使ってくれた結果だ。ハルキはこの学校に首席で入学しているため、俺が撃退したということにするよりもハルキが撃退していたことにする方が自然だと判断したらしい。

 そのおかげで、俺が目立たずに済むので助かっている。マリアさんの華麗で合理的な采配に感服するほかない。


 ……だが、そのせいでハルキがモテまくっているのなら話は別だ。他人の功績で青春のスタートダッシュをきめるのはさぞかし気分がいいだろうなぁ!?


 俺の部屋でゴロゴロとしているであろうシラユキに向かって、俺は念話越しに叫ぶ。


「主人公補正のなんと非合理なこと、よよよ……」

【くだらんな。シンラには妾がいれば十分だろう。それと、あまり大きな声を出すな。頭に響いてうるさい】

「俺だって男だ、女子にちやほやされることに越したことはない」

【黙れ小僧。妾も人間に奉られていた時に男どもを侍らせたことがあったが、それほど楽しいものではなかったぞ。むしろ鬱陶しかったくらいだ】

「えぇ……」


 神様にも色々あるのだなぁ……じゃ、なくて。


「シラエモーン、俺もどうにかしてちやほやされたいよぉ。 このままだとハルキのハーレム無双を見せつけられながら学園生活を送っちゃうことになっちゃうよぉ。一種の拷問だよぉ」

【誰がシラエモンだ! そんな邪念は振り払ってしまえ!】


 シラユキが俺に喝を入れてくる。

 しかし、そんなことで俺の心から溢れ出る殺意が消えることはない。非モテ童貞の執念は一国を呪うからな、甘く見るなよ。


「どうすればこの怒りを抑えられると思う?」

【知らん。そもそも『ラドクロスバース』とはそういう物語なのだろう、運命が正しく進展している証拠だ】

「そりゃそうなんだけど、そうじゃないんだよ…………そうだ!」


 俺は閃いた。


「シラユキ、確かお前、死相をみることができただろ?」

【ああ、見れるぞ。シンラからは死の匂いを感じる。近いうちに死ぬのではないか?】

「縁起でもないこと言うんじゃねぇよ。……まあいい。その要領でさ、俺の恋愛運も見てくれないか?それで俺がこの三年間で恋が実るかどうか占ってくれよ」

【うっ……本当に下らないことにだけ頭がさえる奴だな。わかった、やってみよう。目を閉じて心を落ち着かせていろ】

「おう」


 俺は大きく深呼吸をして気持ちを整えると、ゆっくりと瞼を閉じる。そしてそのまま数十秒ほど待つと、シラユキの声が頭に響いてきた。


【……予想外だな】

「ん?」

【シンラ、お主の運命の相手は案外近くにいるようだ。しかもこの三年間がお前の正念場らしいぞ】

「マジで!?」


 俺は思わず飛び起きる。


「シラユキ、教えてくれ! 誰なんだ? 」

【それは知らんよ。占いなんぞ当方の身の振り方で容易に覆る。実際、貴様は自分の死を自力でひっくり返しただろ】

「う、む。そっか……」


 まあ、そうだよね。シラユキに具体的なお告げができたら俺の死相の原因なんて容易にわかるはずだもんね。


 とりあえず、俺の恋愛事情に光が見えていることがわかっただけでもよしとするべきか。


「シラユキ、ありがとう。少し元気出たわ」

【チョロいな貴様は。もっと感謝しろ。……あと、妾は忙しい。しばらく話しかけないでくれ】

「はいはい、わかりました。ゆっくり休んでくださいね」


 シラユキからの念話が途絶える。


 さて、ここからが俺のラドクロスバースシナリオ改変プロジェクトの第一歩だ。

 この始めの一歩が、俺の未来を左右すると言っても過言ではない。


 そもそも、一年の四月は友達作りに躍起になる時期だ。人脈作りはもちろんの事、今後の行動のしやすさに直結する。

 ここでの選択肢は大きく分けて三つ。


 一つ目、モブのグループに入り、それなりに情報を享受しながら学園生活を過ごす。

 この選択肢の大きなメリットは主人公の動向を把握しやすいという点だ。学園という閉鎖された施設内では、一個人の行動など集めようと思えば友達ネットワークですぐに集められる。逆に噂を流して情報操作をすることも可能だろう。

 一方、デメリットとしてシナリオのターニングポイントに居合わせることが出来ない可能性が挙げられる。行動の自由が利かないということは、俺がシナリオに及ぼす影響も制限されるということだ。


 二つ目は主人公グループに入ること。

 この選択肢の大きなメリットは主人公の近くにいることで情報の入手が容易になる点だ。ゲームでも主人公が学園生活を送っている間は様々なイベントが発生するため、それを間近で観察することができる。一つ目の選択肢とは違い、確実にシナリオのターニングポイントに介入できるだろう。

 だが、その分デメリットが大きい。主人公と行動を共にするということは、そのイベントに否応なく巻き込まれるということ。死亡フラグが乱立している進行の中、主人公補正やヒロイン補正無しで生き抜くのは至難の業だ。


 そして三つ目は、グループを作らず単独で行動する。

 この選択肢のメリットは行動の自由が保障されていること。どのイベントにどのように介入するかも俺の自由だし、人目を気にせず自由に行動できる。

 対してデメリットは情報が手に入りにくいことだ。人脈や情報網の構築を完全に捨てているため、シナリオが進行していることに気づかない可能性が非常に高くなる。確かにゲーム知識でイベント発生の大まかなタイミングは把握しているが、詳細な時間まで把握しているわけではない。


「うーん……」


 ……正直言って、どれもが一長一短だな。

 特に一年生序盤はイベントが立て続けに起こるので、早く方針を決めないと対処が間に合わない。かといって、焦って後悔することになっても困る。


「とりあえず、最初は主人公の動向を逐一チェックして情報収集に努めるか。グループの形成も一日でできるわけじゃない、慎重にやるべきことをこなしていこう」

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