第9話 逃げられなかったよ……

 翌日、俺とシラユキは生徒会室に呼び出された。

 この描写はゲーム本編にあった。だから、後の展開は……


「シンラ、白蛇様。二人とも、今回の件についてお話があります」


 やっぱり、生徒会長による説教イベントだ。

 物語でも、主人公はトラを撃退した後に同じような長文の説教を受ける。ゲームでは『まったく一之宮君は(以下略────』と屁でもないログで流れるだけで済むのだが、音声付きかつ読み飛ばし機能もないリアルでやられると結構辛い。というか、かなり拷問。


 ちなみに攻略対象キャラの説教は主人公に対してかなり甘く優し目…………ただし、俺はモブキャラかつ身内なのでそのレギュレーションが適応されません。本当にありがとうございました。


「まずはシンラ。確かに私は学園のために戦ってと言ったわ。なにせ猫の手も借りたい状態だったし、被害を抑えるために少しでも戦力が欲しかったの。……でもね、だからと言って従弟が体に呪いがかかるほど無茶をするとは思わないでしょう? 誰が予想できるって言うのよ」

「はい、すいませんでした」


 正座で頭を垂れ、反省の意を示す。

 マリアさんの言い分もわかるが、それでも短時間で終わらせるためには絶世反理を使うしかなかったのだ。許してくれ。


「天国の叔父さん叔母さんになんて説明すればいいのよまったく……。早死にしたいの?」

「はい、すみません。死にたくないです」

「だったらなんで無茶なことをするの? バカなの?死ぬの?」

「申し訳ありません。二度としません」

「……はぁ」


 謝罪を聞いて、マリアさんは大きなため息をつく。

 そして、怒りの矛先はシラユキの方へ


「それと白蛇様、どうしてシンラにあのような技の行使をさせたのですか? 白蛇様の慧眼ならシンラが傷つくと想像できましたよね?」

「そ、それは……」


 シラユキは目を泳がせながら、必死に言葉を紡ぐ。


「妾はシンラに言われた通りにしただけで……」

「白蛇様ともあろうお方が若輩に指示を仰ぐのですか? そもそもの話、白蛇様も技の発動自体にはノリ気だったじゃないですか。私は見ていましたよ」

「うっ……それも妾は悪くなくてシンラが……」

「止めなかった時点で同罪です。罰として一か月、お酒の量を減らします。反省してください」

「そ、そんな殺生な!」


 シラユキが膝から崩れ落ち、絶望した表情を浮かべる。まぁ、肝臓を休める期間としては十分だろ、知らんけど。


「とにかく、今後危険なことはしないこと! わかった?」

「「わかりました……」」

「よろしい」


 どうやら、説教パートは終わったようだ。長かったぁ……。


「……さて、二人も反省してくれたことだし、そろそろいいかしら?」


 痺れた足をさすっていると、マリアさんの顔が従姉のものから生徒会長のものに変わった。


「ん? 何が?」

「決まってるでしょう? 学園が襲撃されたことについてよ」


 マリアさんが真剣な面持ちで言う。

 ゲームでは、『主人公がトラを撃退して終わり。めでたしめでたし』だが、現実ではそうはいかないようだ。


「私としては、シンラと白蛇様にはこの件に深く関わって欲しくないと思っています」

「さ、さいですか」

「二人のおかげで被害が最小限に抑えられたとはいえ、これは学園の問題。一生徒であるシンラを巻き込むわけにはいきません。だから、誰かから入学式のことについて聞かれても適当に誤魔化しておいて欲しいの」

「了解です。俺も巻き込まれたくありませんし」


 俺がそう答えると、マリアは安心したような顔になる。


「理解してくれてかったわ。……じゃあ、もう行ってもいいですよ。よき学園生活を」

「失礼しましたー」


 マリアさんに一礼して、俺とシラユキは生徒会室を出る。

 これで入学式事件は終息したと言えるだろう。もしかしたらどこかで余波が生まれているかもしれないが、それは俺の知ったことではない。大したことにならないはずだ。


「……なぁ、シンラ」

「あ?」

「従姉殿に問われた時、なぜ躊躇なく嘘をついた。シンラ自身は今後起きる事件に大きく関わるつもりなのだろう? 」

「まぁ、そうなんだけど……」


 俺はシラユキの質問に対して少し考える。


「マリアさんにはあんまり迷惑をかけたくないんだよ。『従弟が今から運命を変えるために危険なことをします』だなんて知らない方がいい」

「シンラはそれでいいのか? 確かに秘密は己を守るが、逆に己を滅ぼすこともあり得る。最善策とは言いにくいぞ」

「いいんだよ。それに、俺のせいでマリアさんの身に何かあったら嫌だしな。だから、できるだけ目立たないよう行動するつもりだよ」

「ふむ、そういうことか。ならば妾は何も言わぬ。それが従姉殿に知られて怒られても妾は関係ないぞ」

「それでいい。これは俺の独断だ」


 こうして俺たちは、入学式の襲撃についての話を終えた。

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