第20話 幕間:商人と画家の憂鬱

「あ~~~。本当にさあ、言葉に出さなくても態度でわかるんだよ……」



 スコルは一仕事終えた後、王都にあるレストランに入る。座った席には先客として、彼によく似た顔つきの青年が待っていた。もちろん彼も褐色肌である。



「兄さんお疲れ。かなり気を張ったようだね」

「お前もお疲れだ、我が弟『フォルス』よ。お互いにガーディン民相手は気を張ってしまうよな」



 スコルは弟に返事をした後、既に机に置いてあった焼きソーセージにかぶりつく。




「ああ、ソーセージが凄く美味い……こんな美味いのが食べられるのだって、全部俺達バスティリアが手引きしてくれているおかげなのに。何であそこまで威圧的になれんのかね~」

「兄さんの愚痴がキレッキレだ。今日は誰との商談だったの?」

「王国の魔術工房って言ったところ。で、偉大なるマッカーソン様が直々に説明してくれたよ」


「ああ、国王陛下か……あの方態度を隠すつもりがないから、きついんだよな」

「フォルスも会ったことあるのか?」

「肖像画を描かせてもらったことがある。こまめにこっちから声かけて休憩させないと、露骨に顔をしかめてきてさあ……」



 当時を思い出し溜息をつくフォルス。彼はガーディン王国の王侯貴族の間では名の知られた画家であり、今も多くの依頼が殺到している。



「そうだよな~、あいつ自分が一番偉いと思って疑わねえの! 確かに魔法を自由に操れるのはほんの一握りだ! そんなものを熱心に研究し、有益な魔道具や魔術を数多く生み出している実績は認めよう!」

「だからといって、それが他の国を見下していい理由にはならないよな……前から思っていたけど、ガーディン人ってバスティリア人のこと見下してない?」

「『獣にたくさん触れているから肌が黒くなった』って、別の商談で遠回しに言われたことあったぜ。ったくこの国は本当によぉー……」



 届いたワインを一気に飲み干すスコル。いよいよもって感情がヒートアップしていく。



「聞いてくれよフォルス! 今日の商談で、マッカーソンがどんな魔道具薦めてきたと思う? 鼠対策の魔道具だぜ!?」

「……完全に当て付けだね……」

「そう思うだろ!? バスティリアにはそんなのいらねえんだよ――」



「だってバスティリアには!! 『猫』がいる!!」

「そう!! この世の宝『猫』!! 猫ばんざい!!」




 兄弟は二人揃って叫んだ。流石に店員や他の客の目を買ってしまったので、反動で小さな声で話し出す。




「……とにかくさ。獣嫌いを極めているガーディンとの交易は、俺らバスティリア人にとってはストレスなの。でも一番金持ってるのここだから、積極的に取引していかないといけないわけ」

「じゃあどうするの……僕に何とかしろって言っても無理だよ。貴族連中は早く順番回せと急かしてくる割に、褐色肌に難癖つけて、僕の頼みは無下にするんだから」



「……新たに販路を開拓しようと思っている。お前に言うのは決意表明のためだ……明日にでもシュターデン領に行ってくるよ」

「『狂犬王子』の? 兄さん食い殺されちゃうって」

「だから言ってるだろ、これは決意表明。俺が死んだら後のことは頼むぞ」

「商売のことなんて全く知らないのに、僕にどうしろってんだ……」



 食事を取っている間にも、スコルとフォルスは別の人間から後ろ指を何度か刺される。冷たい視線を向けられる度、脳裏に猫を思い浮かべて乗り切っていく。



「でも他の領地も大体そんな雰囲気なのよ。歴史柄なんだろうけど、皆揃って獣嫌い。残っているのがここしかないんだわ。仲間は揃って『狂犬王子』の噂にビビって行こうともしない、まさに未開の地だ」

「まるで冒険者みたいな雰囲気だな……僕が根回しをしたいところだけど、あいにくアルフレッド王子とは面識がないんだ」



「第一王子なのにか? しかも人望も実力も相応にある。そんな有名人の依頼、お前に回ってこない方がおかしいと思うが……」

「何故か僕の所には王子の依頼が回されてこなかったんだよね。他の王族関係者は山のようになだれ込んでくるのにさ。な、ぜ、かっ!」


「あー……その言い方で予想ついたわ。人間ってみみっちいよな、マジで。その分猫って自由でいいよなー」

「いいよねー猫。しがらみに囚われないのがまたいい」




 その後スコルは、フォルスと猫についてたっぷり語り合った後、レストランを後にするのだった。

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