第6話 蜂ノ瀬蛍の日記帳、それを拾い読む男
20××年8月20日
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心を整理する為、気晴らしに日記を書く事にしました。毎日は無理。まだ暑くてジメジメとした夏に私はいます、清治が家に帰って来ない。警察はあまり協力的ではなく不倫による駆け落ちなのではとまで言われた、頭に血が上りそう。そんなわけない。あの人はそんな薄情な人間ではない。私は信じたい。まだ幼い誠には何ていえば良いのだろう、あっちの両親は既に他界しているので実家に帰ったわけじゃなさそう。嫌な予感がする。帰って来るよね。
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8月25日
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清治はまだ帰らない、どこかの国に拉致でもされたのか?まるで神隠し。痕跡がみつからない。探偵に依頼してるのになんの収穫も得られずに時間だけが過ぎていく。
今日は最低な日だった、誠の頬を思わず叩いてしまった、お父さんはどこ?て毎日聞いてくる。あの子は悪くないのに、何てことをしてしまったのだろう。でも私だって知りたい。
近所で仲良かったママ友が私に気遣う事もなく自身の家の出来事とかどうでもいい話を相変わらずしてくる、夫婦円満な家庭。嫌味かと思った。子供も似たように意地悪そうだし嫌い!誠とよく遊びたがるからほんとうっとうしい。この前外で見かけた時に誠があんたの事嫌いって言ってたと伝えておいた。言っちゃった。スッキリした。それからうちに来る事も、誠と遊ぶこともなくなってイライラが一つ解消された。
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9月10日
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今日両親が家にやってきて提案してきた。誠を一時的に実家へ預けて心療内科に通えという。反論の余地はないかも、家事もどんどん疎かになり自炊もしなくなった。誠はあれ以来私によりつかないし怖がってる。最低の母親になってる自分がいた。警察には完全に相手にされなくなった、探偵費用だけがかさんでしまいそうだ。パートじゃこの先払えないかも。貯金も少ないし家を売ろうと思う。
安い賃貸を探そう、もしこの辺にない場合は誠には悪いけど転校しないと。探偵にしか、もう頼れない。両親は口うるさいので同居は無理、百歩譲って近くならあり。
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10月24日
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あれからすぐ市営アパートに引っ越した、誠も転校し新しい学校にも通い始めた。
心療内科に通い始め、週に2回のカウンセリングを受けながら薬を何種類か服用している。何が効いているのかわからないが少し気分が落ち着いてきた。病院にはちゃんと行くという約束を両親としたので誠とは変わらず一緒に暮らせてる。
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―――――パラッ…プシュッ
缶ジュースの上部についてるあの金具、通称ステイ・オン・タブをベテランの手つきで開放する男はゴクゴクと勢いをつけ飲みだす。その中身は炭酸強めのコーラだ。こだわりの配合による甘味料は多くの者を魅了し、そしてシュワシュワと心地の良い爽快感へと誘う至高のアイテムだ。
飲み干し豪快にゲップを放つとそれを机上に何本も並べていく、そんな一人暮らしのワンルームのアパート。グレーの野暮ったいスウェット姿で彼はリビングの照明の下、さらに日記を読み進めていく。
12月3日
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今日探偵から連絡が入った。消息絶つ前の情報だけどバカ高い金額払い続けててよかった、忘れないようにここにメモしておく。
情報①
夕方頃スーツを着て商店街を歩いていた。でもその様子は挙動不審で、止まったり歩いたり何か見回すような動きをしていた。
情報②
17時頃、商店街付近の車道を歩いていたのを見かけた。ラッピングされた綺麗な包みを抱えていた。
情報③
18時頃、女性と近所の住宅街を並んで歩いていた。仲良くというよりは口論しているようにみえた。
挙動不審、プレゼント、女ってさ
うらぎられてないよね?余計に不安になった
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12月28日
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ママがまたまことを預かるとかいいだした。私からうばおうとしてる!まことは元気だうっとうしいせわばかりやこうとするなくそばばあうざいうざいうざいうざいうざいうざい
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3月15日
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久々に病院にいった、冷静になれた。家の中が汚くてビックリした。誠がいつの間にか家にいなかったので走り回って探した。両親が家に来て連れ去ってたみたい。良かった。ごめんなさい。明日からちゃんとしなきゃ。このままじゃだめだ。
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4月20日
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パート先からついに正社員の話が私に来た!やったあ!誠のためにも頑張ろう。
今日は誠の大好きなハンバーグを作った、嬉しそうに食べてた。誠がいればしあわせ、しあわせだ。これで両親に立て替えて貰った探偵費用を少しづつ返せそう。
もう、待つのはよそう。探偵はもうやめよう。
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(ここからかなり期間が空いてるな…)
20××年4月13日
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久々にこの日記を開きます、相変わらずあの人は見つからないまま。病院には欠かさず行くようにしています、誠には沢山迷惑かけてしまった。たまに記憶にない事もあってやばかったけど、両親の助けもありここまでこれた。ありがとうおかあさんおとうさん。誠も無事中学生、最近身長も伸びてきてあの人の面影をさらに感じる。
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6月16日
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今日職場の若い子が都市伝説について話してた、異世界拉致という内容について。なんでも日常生活中に突然見知らぬ世界に飛ばされるんだとか、バカげてる。そんな事ありえない。けど、あの人の失踪と何か関係があるのかもなんて思ってる私もバカだ。あの人は知らない女と今頃どこかで幸せにやってるさいてー野郎だ。だけど誠が急に消えないかが不安になった。最近力が強くなってきたのもあり、あの子を上手くコントロールできない。暫く控えめに接しよう、あの子の人間関係とかもっと把握しなきゃ。お母さんが守ってあげるからね。
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ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「ぅ!!」
突然ポケットに入れたままのスマホが彼を現実に引き戻す、驚き過ぎて背をのけぞらせると椅子の上で尻が飛び跳ねた。またその衝撃テーブルに置かれた空っぽのコーラ缶が数本転がった。慌ててポケットから取り出すとそれは彼の友人からだった。
「もしもっし…て、おま。ノブかよざけんな、今何時と思ってんだ」
『おやおやソラトく~ん、ずいぶんと慌てちゃって一体ナニしてたんですかねぇ』
現在の時刻は深夜2時に差し掛かろうとしていた、通話の向こう側でニヤニヤと揶揄うノブの声が返ってくる。
「ああ、ちょっと…拾った日記読んでた」
『は』
拾った日記を読んでた、というパワーワードがしのぶの一応常識人である部分にコイツやべぇまじありえんですわという戸惑いを持ち掛ける。
『お前ヤバすぎだろ、さっさ交番届けろ。この狼藉もんが』
「ろうぜきもんってお前…はいはい全部読んだら届けとくから。別に悪用とかするわけじゃないし」
『悪人は皆そういうんですよねぇ』
「うるせえ、昼にでも届けとくって。なんだよっ用事ないなら切るぞ」
『あー!!ちょっまってぇ!』
切ろうとした途端、スマホ越しに大慌てなしのぶの声が鼓膜にクリティカルヒットした。スピーカーを耳から遠ざけると空人は不機嫌に返す。
「声でけえっ。なんだよ」
『ネットみてたらエグい報道ニュース見つけてさ…教えてあげようと思って。しかもつい最近、お前の住んでるすぐ近くでさ』
空人は無表情で椅子から素早く立ち上がると玄関へ駆け出した、自身が立派な成人男性とはいえ不意打ちに勝てる自信はなかったのだ。鍵よし、チェーンよし、ドアスコープから外を覗くと誰もいなかった。よし!ついでに窓やベランダ周りもチェックしていくこの入念さ―――彼はかなりのビビりだった。
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