第6話 合鍵(4)
すると、いきなり居室のドアがガッと開いた。
「うわぁ!」俺は声を上げた。
やばい、あさひか…と思ったら、また別の男が出て来た。上半身裸で濡れた髪をタオルで拭いている。下はスエットを穿いている。一緒に住んでるのか…俺はショックを受けていた。二十歳くらいのイケメンだった。皺や吹き出物一つない、きれいな肌をしていて、年齢を物語っていた。セクシーで俺でもドキドキするくらいだった。まるで少女漫画だ。
芸能人ではない一般の人でも、こんなイケメンがいるんだなと驚くくらいの超イケメンだ。彼が中卒だったとしても、俺は絶対に勝てないと白旗を上げるレベルだった。
「あ、どうも」俺は頭を下げた。
「あんたたち誰?」喋り方からして、柄が悪かった。田舎の工業高校にいそうなタイプだ。(工業高校出身の方、すいません)
「みんな、あさひの彼氏だよ」俺はふざけて言った。
「あいつ、五股も掛けてたのか…。馬鹿にしやがって!」濡髪のイケメンが言った。
「すごい偶然だね。一挙に勢ぞろいなんて!」
俺は次第に楽しくなって来た。みんな俺と親子ほども年が離れていたが、俺は今現役で付き合っているんだ。みんな振られたんだから、大人しく負けを認めればいいのに。俺はすっかり上から目線だった。
「笑ってる場合じゃないですよ」
会計士の男も口ではそう言いながら笑っていた。
「被害者の会でも作るか」
俺は冗談で言った。
「それ、ありですね!」兄ちゃんが言った。
「本気で言ってる?」俺が続けた。
「はい。あいつのせいで、人生無駄にして本当に後悔してるんです」
「いろんな男に合鍵渡してるって、どんだけ軽い女なんだよ!俺が馬鹿だった」
会計士が本気で嘆いていた。
「これだけ同時にってすごいね…」
俺は正直に言った。ものすごいマルチタスクな子じゃないか。マルチタスクというのは同時にいろいろなことができるという意味で、ビジネス界隈ではよく使う言葉だ。
「え?知らないんだ。おじさん」上半身裸のイケメンが言った。
「おじさんって言うな!」
「おかしいと思わねぇんだ?あんた馬鹿だね」初対面の人の中に裸で出てくるくらいだから、やっぱり失礼なやつだった。
「何が?」
「元彼氏たちが同じ日に集まるなんて…」会計士の男がぽつりと言った。
「どうせ、君たちが示し合わせて来たんだろ?俺に焼きを入れるために」
俺は自分から言っておきながら、ちょっと怖くなって来た。
四人の若いイケメンが俺のことをしげしげと見ていた。やばい。元はそんな気なかったかもしれないのに…火に油を注いでしまったようだ。これから集団リンチか…。あんなくだらない女のために?
俺はこいつらから、気を失うまでボコられて、簀巻きにされて、東京湾に沈められてしまう。そうなったら、どうしようと小さくなっていた。
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