第5話 合鍵(3)
公認会計士の男が何を言っても、まったく同情できなかった。俺たちがほとんど聞いていなかったにも関わらず、男はずっと喋っていた。幼稚園の時お受験で名門私立に合格、大学までエスカレーター式で進学し、在学中に会計士試験に合格。学生時代はずっと勉強が大変だったと言うことだった。しかも、ピアノとテニスもやっていたらしい。確かに田舎育ちのあさひには合わないと思った。
後ろからゴトっと音がして、突然、クローゼットのドアが開いた。
俺が振り返ると、洋服の中から別の男が出て来た。
童顔でかわいい感じの顔をしたイケメンだった。俺たちと違って私服姿だった。見た目的には大学生風だった。あまりに唐突過ぎて、ショックで気を失うかと思った。
「うわぁ!びっくりした」俺は声を上げた。他の二人はそれほどでもなかった。
「さっきから聞かせてもらいましたが、あさひは俺の彼女です。みなさんには悪いんですけど、大学入ってすぐに出会って付き合い始めたんですから…」
「じゃあ、君が一番長いのか…」
俺はその子に席を勧めた。すると、当たり前のようにそこに座った。まるで、バイト先の休憩室みたいだった。重い空気が流れた。
「それにしても、あさひは、四股もかけてたのか!騙されたよ!」
俺はあさひを非難した。何とだらしない女なんだ。全員にいい顔しやがって。
「生々しいですね。こうやって顔を合わせると…」兄ちゃんが言った。一番まともだし、俺は彼に好感を抱いていた。うちの会社になんか来ないだろうけど、部下だったら本当にいいなと思う。
みんなイケメンだった。だだし俺以外。もしかしたら、俺だけパパ活対象だったのかもしれない。
あさひはイケメンが好きらしい。社会人の二人はともかく、大学生の子なら俺でも勝てるかと思ったら、そいつは、どうやらモデル事務所に所属しているらしい。
「僕の実家が貧乏なのが嫌だったみたいで…そんなのどうしようもないじゃないですか」
「まあ、そういうのは本人が気にするかどうかだけだしね」兄ちゃんが言った。当の本人はどんな素性の人なんだろう。口先で同情するだけで、実際は金持ちなのかもしれない。
俺たちは、気の毒になってそのヘタレ大学生を慰めていた。彼が通っているのは有名大学だけど、トップ校ではないし、さらに実家が貧乏となるとたとえ本人が努力しても厳しいのではと思った。俺はこいつになら負ける気がしなかった。
「あの…ちょっと、見たことある気がするんですけど。ドラマに出てませんでしたっけ?」会計士が言い始めた。
「はい。どのやつですか?」
どうやらいくつかドラマに出ているらしい。
「二年前くらいの月9で…」
「はい。ちょい役ですけど、〇〇〇主演のドラマで友達役で出てました」
俺は言葉を失った。あんた、大学では有名人だろうに…!しかし大学っていうのは狭い世界だ。ちょっと外に出るともっと広い世界が広がっている。俺はそんなやつ知らなかった。
「でも、芸能界なんてきれいな人ばっかりなんじゃないですか?」俺は尋ねた。もしかしたら、そういう世界ではあさひなんてジャガイモみたいな存在かもしれない。
「でも、芸能界は勉強してない子が多いし…元ヤンっぽくてあんまり好きじゃないんです」
〇〇大ふぜいが何言ってんだか…と俺は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます